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そう簡単にはいかないもので。



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「で、ジンさんはどこに――」
「はい、カイト腕立て千回」


どこにいるのかカイトに聞こうとした瞬間、背後から声が聞こえた。ここで声を掛けてくる人物はもう一人しかいないため、誰かはわかりきっているが、腕立て千回って、え?回数を聞き間違えてしまった気がする。それか言い間違えたんだろう。そう思っている間にカイトは訊き返すこともせずその場で腕立てを初めてしまった。うそだろ承太郎!


「お前がギメイで合ってるよな」


未だに私が背を向けているにも関わらず、確認を取った背後の人物、ジンさん。私は急いでカイトから目を外し、ジンさんに向き合った。


「そうです」
「で、用件は?途中で諦めずに四日間もここを彷徨ったくらいだ、それなりに重要なんだろ」


私からすればそれなりでは済まないくらい重要なんだけど、ジンさんからしたらそれなりなのかもしれない。しかしそれよりも“途中で諦めずに四日間もここを彷徨った”という発言が気掛かりだった。なんで諦めなかったことを知ってるんだ?四日間も時間が掛かったのだからもしかしたら一度は諦めて街へ降りたかもしれないのに。だが今はそれを問い詰める必要もないし、その権限もない。ただ私が深読みしすぎただけの可能性も大きいのでこれは流すことにして、私は大きく深呼吸を一回。


「単刀直入に言います。私を弟子にしてください」
「は!?」
「断る」


なんでカイトの反応のほうが早いの。めっちゃ早すぎだよお前。ていうかジンさんにも即行で断られたんだけど。


「……弟子にしてください」
「断るっつってんだろ」


お前の耳は飾りか?なんて言われてもいないのに、そう言われてるように聞こえた。それでも私が念の師匠を頼めるのはカイトという接点があるジンさんだけだから、ここで諦めるわけにもいかない。しつこいのは百も承知で私は地面に座り込み、土下座の体勢に入る。このときジンさんが「止まんな、プラス300」と言ったのが聞こえ、たぶん私のせいとはいえ、可哀想なカイト…と他人事になったのは言うまでもない。だって今それどころじゃないもん私。勢いが良すぎたのか、ゴツン、地面と私の額がぶつかる音がした。ちょっと痛い。


「お願いします」
「……俺が好き好んで弟子を取ると思ってんのか?」
「……わかりません。だけど、お願いします」


頑固な奴だと思われたんだろうか、頭上で溜息が聞こえた。それから「とりあえず顔上げろ」と言葉が続けられたので私は黙って顔を上げると、いつの間にか私の目の前にジンさんが座り込んでいた。隠すことなく私が面倒臭いんだろうなとわかるような顔をしているジンさんはある意味好印象だった。


「カイトは拾ったようなもんだ。俺の気紛れでな。だから俺はこいつ以外は弟子をとるつもりはない」
「……それでも、私はあなたしか教えてもらえる人がいないから、お願いします」
「……教えてもらう人がいねぇってのに俺が納得すると思ってんのか?それならその念は誰から教わったんだ?ああ、自分で学んだなんて返事は求めてねぇからな。念が学べる教科書みてぇなもんがそこらへんにホイホイあると思うなよ」


それとも流星街にはそんなものまで捨ててあるのか?ジンさんの口から言葉が出るたび、私はただただ詰まる一方だった。


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