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虫は小さくてもただでさえ気持ち悪いというのに、どうしてここまで大きくなる必要があったんだろうか。と、逃げながら思った。



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どれだけ走っただろうか、後ろを振り返っても気持ちの悪い虫の姿は見えず、わさわさと草を掻き分けるかのような足音の代わりにお世辞でも綺麗とは形容し難い野鳥の声が遠くから聞えた。距離もだいぶあるようだしよっぽど声が大きい野鳥なんだろう。この密林に今更普通というものを求めてはいないので私の想像した野鳥の容姿はあまりよろしいものではなかった。脳内はその野鳥の容姿を考えることに持っていかれそうになるが、それよりも虫を振り切れたことの安堵のほうが大きかった。

念のため、円を広げてみるべきか。万が一まだアレが近くにいることになったら私が広げた円の中にその姿を確認することとなるわけだが、それが物凄く嫌だった。自分でも無意識に顔が歪んだのがよくわかる。しかしもう一度遭遇してしまうのと、確認するだけなのと、どちらがいいかと訊かれればもちろん私は後者を選ぶわけで。


「いや、30メートル以内にいなければいいわけだし、案外30メートルってそんなに広くないし」


考えてみろよ、50メートル走より短いんだぜ。と、一人ブツブツと密林でごちる私は誰が見ても不審人物だろう。まあ、見てる人がいるわけないんですけどね。一度深呼吸をすると私は腹を括って円を広げた。5メートル、10メートル、20メートル、どんどん広がっていく円が限界まで到達したのを感じるが、その最中に私以外の生物を感知することはなかった。

よかった、アレはもう近場にはいないのか。と、二度目の安堵を感じたかったが少し気になることが、二つ。こんなとこにいるのだから少しでも不安要素は取り除きたい。円を広げたまま、なるべく精密に、具体的なことがわかるように私はもう一度集中し目を瞑った。

まず一つは、この30メートル以内に生命反応が全くないこと。
いくら私の円の範囲が30メートルで目視しうる距離だとしてもここは密林で、草木は多く、そこに身を隠して息を潜めていれば、気配を読むのに長けている者だったり、私のように円を使う者でない限りは見つかりにくい、はず。だったら小動物でもなんでも、それこそ先程鳴き声が聞こえてきた野鳥の一匹や二匹、そこらの木の枝に留まっていてもおかしくない。それなのに、まるで意図したかのように、ここら一帯を避けるかのように、どれだけ集中してもやはり円の中に生命反応は感じなかった。

そしてもう一つは、円を広げている最中、生物を感知することはなかったが、変な違和感を感じたこと。
居心地が悪いというか、気持ちが悪いというか。それが円を広げている最中だったからこそ、一つ目の――あれだけの違和感を感じながら生物がいないということが、さらに気になってしまった原因である。だが実のところ、この違和感は円を広げた瞬間、その時から感じていた。しかし辺りを見回しても近くに私以外のモノはいないし、いつもならこんな感覚にはならない。ただ単に、この数日色々ありすぎて疲れているだけなんだろうと言ってしまえば簡単に片付いてしまう問題なのかもしれないが、やはりそれでは不安は拭えなかった。


「……ここらへんに生物がいないのに何か関係してるのかな」


行き着いた答えはそれだった。それでもまだ、その答えは答えと言えるものではなかったが、何か今の私を助けるヒントのように感じた。


*


「………あった」


やっぱり、そうだったんだ。数十分前に出た答えの答えを私なりに考えた。そして目の前にあるソレがまさに私の考えと一致する。しかしソレがどうして“ここら一帯の生物がいないのに何か関係してるのか”は詳しいとこ、よくわからない。ただなんとなく、もしかしたらこの付近にジンさん達の住居があるのではないかと推測というよりは憶測に近い答えが出たわけだ。

円を広げ、家の中を確認するも、中に人の気配は感じられない。これは待ち伏せしとくべきか、そう考え真っ先に浮かんだのは家の外で待つことだったが少しでも姿を見られてしまうと逃げられてしまいそうだったので申し訳ないが勝手に中へお邪魔することにした。

さて、ここからが本番……だろうなあ。


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