Optimist | ナノ

気が付けばこの密林に入ってから四日が過ぎていた。



119




「あ〜ほんともう、どこあんの…」


大きく喚くほど元気じゃない体を動かして進む。この密林自体、どれほどの大きさなのかを把握していなかった私を恨みたくなった。歩いても歩いても目に入るのは草!木!土!たまに川!である。そして運が悪ければあの鼻の大きいイノシシに出会ったり、見たこともない別の動物に出会ったりした。イノシシは最初の頃に出会っていたため、対応は“マシ”にはなったほうだと思う。間違っても慣れてきたなんては言えないけど。

全然彼らを見つけられないのは私の気配の消し方が悪かったり、動物に遭遇した途端絶を止めてしまうからだというのはわかってた。いや、実際そうなのかは本人に聞かなければわからないけど、なんとなくそんな気がした。もうこうなったらいっそ、第一目標をカイトとジンさんの家を見つけることに変更しようと思ったのはほんの数時間前の話だった。さっさと諦めてこうしとけばよかった。だって、さすがに家は移動しないよ、ね?

いや、まじで移動しないよな?唐突に浮かんだありえないことが、あのジンさん――私の中だけで作られた勝手なイメージだが――のことだからありえるかもしれない、と考えてしまうのだ。あの人の住んでるとこがからくり屋敷だと言われたら私すんなり納得しちゃいそうだもん。


「あーでもからくり屋敷って浪漫だな」


いつかそんな屋敷建てたいわー。なんて暢気に歩いていると背後からカサリと草が擦れ合う音がした。いくら今の私の脳内がほわんほわんしていようと、常時といっていいほど気を使って過ごしていたこの数日のお陰で気配の読み方は上手くなったほうだし、耳が良くなった(と思う)。前の私なら今の音も聞き逃していたに違いない。


「……さ、出ておいでよ」


こちらは準備万端というように隠れているであろう動物へ向き合った。こんなに近い距離だから精密さを意識して円を広げればソイツがどんな動物なのかすぐにわかるが、どうせまたイノシシとかそこらへんだろうと思って何もしなかった。

隠れているソイツがまだどんな動物かはわからないが、出てきたら戦うのかと訊かれると答えは限りなくノーに近い。何故なら私の戦い方は、動物に相手をしてもらいながら自分の念能力を上手くコントロールし、そして逃げるというものだから。ま、相手をしてもらうと言っても言葉が通じているわけでもないのでこちらが一方的に利用している形になるけど。だからといって私は動物相手に念能力は発動することはなく、発動対象は全て私自身とここに生い茂る森林や水、自然だった。

葉っぱとか、木の枝とかは簡単なのに、木自体とかの大きいものになるとなかなかうまくコントロールができないんだよなあ。要は慣れなんだろうか、と軽く頭を捻る。それならやはり今日も色々試すしかないな。


「ほら、出てこないならこっちから仕掛け――」


るよ、と言葉が続くことはなく、それより先に出てきたのは女らしさの欠片もない私の叫び声だった。


*


「もうっやだ、泣きた……やだあああああああ気持ち悪いいいいい!!」


わさわさと何十本もの足を動かしながら私に近付こうとするムカデに似た虫はやはりこの密林で育った故か、大きいと言えばいいのか、長いと言えばいいのか、とにかく気持ち悪いくらいに規格外なサイズだった。ハンター試験の二次試験で襲ってきた虫よりは小さいものの、なんかもうあの足とか足とか足とか……受け付けない。全力で拒否する。体が拒絶反応起こす。いや、まじで。

鳥肌立ちまくりでさらに涙目になりそうだがここで諦めてはいられない。諦めたらそこで試合終了ですよね安西先生…!頑張れ私、安西先生も見守ってる!
利き手でグッと拳を作り心を決める。いや、戦ったりしないけど、むしろ修行の“し”の字も見せずに全速力で逃げますけど。私はオーラの量を増やし、それを足へと集中させて地面を蹴った。


ムカデに似た虫:ヤスデ


prev / next

[ back ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -