Optimist | ナノ

人間の匂いとはいっても、ここは草木の匂いが充満していた。だからこそ、私一人くらいどうってことないだろうと甘く見ていたのが悪かった。動物の鼻の良さを軽視してはいけない。それに、あのイノシシみたいにあれだけ鼻が大きければ当然鼻が利く。というのを身を以て体験しました。まる。



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再び揺れる木から落とされないように踏ん張ろうとした結果、踏み外してしまった。サァ、と血の気が引くような音が聞こえた気がした。このまま落ちれば怪我をするし、運よく助かってもあのイノシシが向かってくる。一番最悪なのはこのまま落ちて、さらにイノシシが向かってくることだ。そう考えると、私の居場所が気付かれることなんてどうでもいいことだった。

“重力崩壊(リトルクラッシャー)”

念能力を発動してできる限り自身の身体を軽くするイメージをする。すると、急速に落下していた私の身体はまるで紙でも飛ばしてるかのようにゆっくりと落ちていく。なんとも奇妙な感覚だ。しかし今の状況を楽しむ暇はなく、下で待機しているイノシシを何とかしなくてはいけない。できるものならこのまま逃げてしまいたいが、逃げても追われ続けるのが目に見えている。


「あのイノシシ…どこで見たんだっけな…」


明らかに私を睨んでいるイノシシを落ちながら観察する。


「んんん?……あ、」


そうだ、ハンター試験だ。ポンッと脳内に浮かんだのはピンク色で鼻が大きい豚だった。名前はなんだったのか忘れてしまったが、あの見た目と一致する動物を私は漫画を通して見ていた。

となると弱点はあの頭?おでこ?ゴンがそこらへんを殴打して気絶させていたような気がするけどどうだったかな…。ウンウンと唸っている間にイノシシとの距離は段々近くなっていき、いつの間にか殴打で気絶させる方法しか選択肢は残っていなかった。
真っ直ぐにしか突進しないようであれば私が気を付けるのはあの大きな牙のみだが、あの牙が一番の不安要素。いくらオーラを纏っているとしても痛いのは遠慮したいものだ。


「……お手柔らかに頼むよ、イノシシくん」


木の前に降り立つとイノシシはすでに突っ込んでくる体勢をとっていた。
ドンッてきたらピョンッてしてブンッ!よしこれだ!私は一度脳内でなんともお粗末な一連の流れをイメージしてからイノシシを睨みつける。イノシシもイノシシで私に睨みつけられたことが癇に障ったのか、鼻を大きく鳴らすと先程よりも勢いよく突進してきた。


「…っと!」


すんでのところで上へとジャンプすると、イノシシは今までで一番大きい音を立てて木にぶつかった。鼻、痛くないのかな。そんな余計なことを考えている頭をブンブンと横に振り、私は軽かった身体を一気に重くする。グンッと地上に引き寄せられるのを感じながら真下にいるイノシシ目掛けて右足を大きく振り上げた。


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