「必ず、私がラウさんを救いますから」
そう言って微笑むことしか今の私にはできないけれど。
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早朝、太陽がもうじき顔を出す頃だろうが生憎流星街の汚れた空気ではそれを拝むことはできなかった。荷物を背負い、二年間ラウさんと共に過ごした廃墟を出る。
「いってきます」
あわよくば数日で帰ってくることになりませんようにと願いながら、返事が返ってくることのない家に向かって出掛けの言葉を投げかけた。
*
電車飛行船バスに一回ずつ乗って、ほぼ一日掛けて辿り着いたのは緑が生い茂る密林だった。バスを降りてから何人かの地元の人にここへはどうやって行けるのかを尋ねたが、訊く人訊く人、早まるのはやめろ、と大きな勘違いをされて止められた。私まだ死ぬつもりはないです。
空はもうほとんど真っ暗に近いが、飛行船でぐっすり睡眠をとっていた私は目が冴えていた。早いとこ二人の内のどちらかを見つけ出したい私は今がチャンスのように思えた。さすがのジンさんでも夜は寝るだろうし、多少は朝昼よりも無防備になるはず。そう考えた私は闇に溶け込むようにとイメージしながら絶をした。
正直、絶をしたほうがいいのか、しないで能力に頼るべきなのか、どっちがいいのか私にはわからなかった。絶をしなければ私の気配は彼らにばれてしまうだろうが、絶をすると私は一般人以下に成り下がってしまう。木の上に飛び乗ることもできなければ、危険な生物が出てきても対応できない、なんともお粗末な話である。それでも悩んだ末に絶をしたのは、これで生物達も私の存在に気付きませんようにという単なる願望からだった。
「にしても、夜にこんなとこ歩くのは怖いなあ…」
今のような状況に置かれなければ一生夜に一人でこんなところへ来ることはなかったと思う。なるべく足音を立てぬようにと気を付けながらそろそろと足を進めているが、今私がどこらへんにいるのかは把握できていなかった。そもそも、この密林の地形を把握していないのだからどこにいるのかなんて無理な話だが。
まぁでも、今現在の場所なんて私はどうでもよかった。二人が寝ているであろう場所を突き止めればそれでいいわけだし。地元の人に聞く限りでは人なんて住めるようなところじゃないと言っていたからジンさん達以外が住んでいる可能性はないに等しい。それなのにジンさん達が住んでるのは、ほら、あの二人って人じゃないし。
心もとない懐中電灯の灯りがこの暗闇での唯一の味方だった。
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