Optimist | ナノ

ラウさんを驚かせて変な顔をさせたとき、あのときは私は思いっきり笑った気がする。珍しいものを見たと言って、笑ったんだ。



112



びくりと肩を上下させ、恐る恐る顔を上げるラウさんの姿は見ていて気持ちがいいものではなかった。私の知ってるラウさんはそんな顔、しない。
しっかりと正面を向いた瞳は、私のそれと交差した。


「……してねえ」
「…わかってますよ、そんなこと」


主語が足りてないにもかかわらず、その言葉の意味はすぐに理解することができた。彼が恐る恐る上げた顔から見れた不安の色はおそらく、いやきっと、私がラウさんに絶望しているという可能性が怖かったから。ばかな人、私もカルロさんも流星街の人もみんな、誰一人として信じていないというのに。ふふっと零れた声は静かな空間によく響いて、ラウさんの耳にしっかりと届いた。


「笑うとこじゃねえよ」
「そうですね、でもなんだか可笑しくて」


ああ、私の知ってる仏頂面だ。


「ラウさんが思ったより元気でよかったです」
「……別に濡れ衣掛けられただけだからな」


そう言ったラウさんは少し苦しそうに笑った。私とラウさんの距離はこんなにも近いのに鉄格子がそれを邪魔していて、どうして警察はラウさんを殺人犯になんか間違えたんだろうかと苛立ちを覚える。


「ね、ラウさん」
「あ?」
「なんでこんなことになっちゃったのか、詳しく教えてくれませんか?」


少しだけ穏やかになっていた空気が一転する。ラウさんは話したくないかもしれないが、真犯人がまだ捕まってない上に警察があの様子では私はどうしても聞く必要があったし、ラウさんに会えてないカルロさん達もどうしてラウさんが殺人容疑で捕まることになったのか知らないのだ。ラウさんも一瞬躊躇ったものの、私が有無を言わさぬ顔で見つめているとわざとらしく溜息を吐いてみせた。


「それがよ、」


ぽつりぽつりと言葉が零れる。

俺はその日仕事で街に出てたんだが、近道をしようとして裏通りを通ったんだ。元々あんまり人気のない場所だったからいつもそこを通るとき人と遭遇することがなかった。それなのにその日は偶然、人の声が聞こえたんだよ。少し高い、悲鳴も交じってな。それで違和感を感じてそっちに向かってたら、いたんだ。襲われてる女と、変な能力を使う男が。

「……変な能力、ですか?」
「ああ、そいつが女に触ってもいねえのに急に血が流れたんだ。ナイフか何かを投げたとしてもそれが残るはずなのに男は女をそのままにして表通りに出てったんだよ」
「その男の顔は見ました?」
「いいや、丁度良く俺に背を向けてたからな」
「そう、ですか」
「それで女にまだ息があるのか急いで確認しようとしたところを目撃されて、そこからの展開は早かったわ。勘違いされ、事情聴取され、身元調べたら流星街の住民だと分かった瞬間のあの警官共の変わりようは…」


期待も何もしてなかったけどな、とラウさんは唾でも吐くかのような渋い顔をした。それとはまた別に私はなんとも言えない顔をする。

……変な能力、ね。


prev / next

[ back ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -