Optimist | ナノ

「ラーウーさーん!メリークリスマス!」


ゴミ山で鉄くずを入れた袋を担ぐラウさんは宛ら流星街のサンタといったところか。しかし声を掛けられた当の本人はまるで不思議なものを見るかのような目で私を見ていた。


「めりーくりすますってなんだ?」


あれ、前にもこんなことなかったか?あ、そうだ。ねんってなんだ?って訊かれたときだ。その時と同じように、クリスマスの意味を理解できずにいるラウさんの発音はどことなくぎこちなくて、可愛いなと笑いそうになってしまう。

というかラウさんはクリスマスを知らないのか。そもそもこの世界にはクリスマスが存在しない…とか?いやいやいや、そんなことはないはず。きっとどの世界にだってサンタさんはいてくれるはずなんだ。子どもの夢を壊すのよくないと思う!いや、まてよ、ラウさんの場合もしかするとずっと流星街育ちでクリスマスをしたことがないのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。

一人悶々と考えて黙っている私にラウさんは早く俺の質問に答えろと言わんばかりの睨みを利かせてきた。


「やだラウさん怖いですよその目、あ、元からか!」
「一発ぶん殴られてぇようだな?」
「…ラウさんの顔っていっけめぇん!」


ごつん、褒めたはずなのにラウさんの拳が落ちてきた。痛い。私が涙目になったにも関わらず相変わらず睨んでくるラウさんにキッと睨み返して簡単にクリスマスの説明をする。


「要するにお偉い神のお誕生日ですよ」
「悪い、どこが要するになのか説明求める」


*


なにかと大事な言葉が欠落するナマエからなんとかクリスマスの意味を聞くことに成功したが、俺には縁のないようなものに感じた。それこそ、ナマエと出会っていなければこの先クリスマスという単語を聞くこともなかったかもしれない。


「で、それがどうした?ケーキはねぇから食べたきゃ自分で街まで行って買ってこい」
「うわっラウさん冷たい!ていうか今日は昼すぎから隣の街で仕事あるって言ってたじゃないですか」


こういうことはしっかり覚えてるんだな、と都合のいいナマエ頭をぽんぽんと撫でてやると何を勘違いしたのか、ぱあっと顔が明るくなったような気がした。いや、買いに行ってやるわけねーじゃん。そういうと先程までの嬉しそうな顔が一気に崩れた。まるで百面相のようにコロコロと変わる表情は見ていて飽きない。

ナマエが文句を言ってくる前に集めた鉄くずを集会場に持って行くことにした。そのまま街まで行けば丁度いいだろ。


*


「…おかえんなさい」


街から帰ってくると未だに不貞腐れた状態のナマエがいた。なんだまだ怒ってんのか。ケーキを買ってくるつもりは1ミリもなかった、というか戻ってくるまでに機嫌は直ってるだろうと思ってた。ほんと、ガキかこいつは。ポケットに手を入れると、こつん、と今日街で買ったものが指先に当たる。ああ、そういえば。ふと思い出し、無意識ににやりと悪い笑みを浮かべてしまった。


「…いいもんやろうか?」
「いや、明らかに顔が悪い顔になってますって。そんな何かわからないもの要りませんよ」
「まあまあ、そう遠慮すんなって」


そう言って俺は自分が左耳につけているのと色違いのシンプルなピアスをポケットから出す。ナマエは一瞬何なのかわからなかったようで目蓋を開閉させたあと、ピアス?と間抜けな声を出した。


「…私、耳開いてないですよ?」
「おう、知ってる」
「へ?じゃあ、なんで――」


俺が逆のポケットから安全ピンを取り出すと、俺の意図がわかったのかナマエは顔を青くして、今にも逃げようと座ったままじりじりと後退する。耳に穴を開けるのは別に痛くはないんだが、処女耳のナマエからすると耳に穴を開けるのは怖いと思うはず。ただその怖がる様を楽しみたくてピアスを買ってきただけだと言えばきっと散々文句を言われるだろう。


「ほら、いい子にはクリスマスプレゼントがあるっつってたろ?」
「お、覚えたての知識をこんな風に使うやつがいるか!」


がしり、逃げるナマエの腕を掴めば、ひっ、と小さな悲鳴が聞こえた。

無意味なレジスタンス
「いやいやいや!絶対痛いですって!嫌だあああ開け開たくないいいいいしかも機械じゃなくて安全ピンとかやだよおおおおおお」
「もう開いてるぞ」
「えっ」


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