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無知転生かクロロ成り代わり

いつ、私は死んだのだろうか。大方、自分でもわからないまま、ぽっくりと命を落としたのだろうが、記憶が正しければまだまだ生きていてもおかしくない年齢のはずだった。

そんな私は第二の人生を、生を授かったらしい。


「ナマエ、ナマエ」


前世の記憶、と言えばいいのか。ソレがある私からすれば何度も呼ばれるその名に違和感しか感じない。しかし前世の名前がなんであったのかは思い出すことはできなかった。まるでそれ以外の何もかもを鮮明に覚えている代償とでもいうかのように、前の両親から授かった一生手放すことのなかったはずの、もし自身が誰か愛する人を見つけ、結婚することになっても、名字とは違い変わることのなかったソレが消えてしまったのだ。

この体も、声も、顔も、名前も、全てはこの第二の人生の親から授けられたモノで、私が今まで過ごしてきたモノは一切見当たらず、無理やり上書きされたような錯覚に落ちた。もしも、私が大きく成長するにつれて、顔が前世と同じだったとしても、それは前世の私ではなく、やはり上書きされた嘘の私なんだろう。


「ナマエ」


愛しそうに私を抱き上げる彼らは、ひどく可哀想な人達だと、思った。それが今の私の両親であろうが、前世の記憶を持ったまま産まれたせいで、こんな可愛げのない考えをした子どもを育てなくてはいけないのだから、同情し、同じくらい私は絶望した。

話すことができない私は赤ん坊のように泣いて気持ちを伝えなければいけない。お腹がすいた、眠たい、お尻が気持ち悪い。それ以外の余計な感情を無駄に出さなかったとしても、なんて面倒臭いんだろうか。対して、嬉しそうに反応し、面倒を見る彼らはなんて優しいんだろう。自分達の子だからと言ってしまえばそれまでだが。

両親であろうその二人には、私以外の子どもの影はなく、きっと私が初めての子ども。歳もまだ二十代半ばくらいだろうか?毎日仕事に出掛ける父は行くときも帰ってきたときも必ず私に挨拶をして笑う。私は他人としか思えない家族に、償う様に、無邪気な赤ん坊を演じながら作った笑顔を向けるのだった。


ああ、こんな私でごめんなさい、と。



***

女主で無知転生。それかクロロ成り代わり。
(2014/01/02)

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