「いじめは関心しないないなぁ」

雨ですぶ濡れになった私の腕を強引に引っ張り立ち上がらせた幸村は周りの女の子達に笑顔を向けた。文面を見ると笑顔の幸村はその場に似つかわないと思われるかもしれないけど、幸村の笑顔は女の子達が見て顔を強張らせて逃げるくらい強烈なもので。普段の笑顔と違うってこと位、あのバカな女の子達にも分かったのかも知れない。

「ありがと」
「大丈夫?」
「うん」

幸村に渡されたハンカチで制服についた泥を拭くと、水色の綺麗なハンカチはあっという間に茶色に染まっていく。特に気にすることもなく汚くなったハンカチを幸村に返すと、幸村は何か言いたげに私を見つめてきた。言いたい事があるならさっさと言えばいいのに。

「何?」
「別に」
「嘘」
「君は強いね」

幾度幸村に助けてもらって来ただろう。校舎裏、中庭、トイレ、昇降口、どこでいじめられようと必ず幸村は現れこうして私を助けてくれた。もしかしてずっと私のこと見てるんじゃないかと思うくらい必ず助けてくれる。だけどそれはいつも事が終わってからで、今まで一度も未遂で終わった事がなかった。
そんな曖昧に私を助ける幸村の気持ちは読めない。いつも意味深に笑っていて本心を見せようとしない幸村を責めるわけでもなく、ただ私も幸村の好意を受け入れるだけ。そんな事が続いたある日の事だった。

「お前幸村にチクってんの?」
「チクってない」
「じゃあなんでいつも助けに来るんだよ」
「知らない」

連日の幸村君の行為が、とうとう幸村君の事を好きな女子の嫉妬心に火を付けたらしく、私はその飛び火を食らっていた。いつものバカ女プラスおそらく幸村のファンクラブの子達が数人、総計8人にも及ぶ女の子に囲まれた私は圧倒的に不利だ。不利だなんて今更始まった事じゃないんだけどね。
今日ももちろん幸村は事後に来るだろうと私は黙って女の子達の暴言と暴力を受け入れた。どんなに酷い暴言も私の冷えきった心にはもうどんな傷痕も残さないし、暴力だって他人に見せられないような所に傷をつけるから先生に告発する事もできない。無論、したところでいじめが酷くなるのは分かりきっているからするつもりはないけど。

「大体お前さぁいつもいつも…」
「いつもいつも、何?」
「ゆっ、幸村君…」
「大丈夫?」
「…今日は早いね」

それが何故かはわからない。けど幸村はいつもより少し早くその場所にやってきた。そしていつものように私の腕を掴み強引に立ち上がらせると、ポケットから小さなデジカメを出して女の子達に見せびらかす。それがどういう事かわかったのか、女の子達はわかりやすく顔を真っ青にしていった。地面にへたりこむ女の子もいるくらいで、そんな女の子を見ると同情すら湧く。
幸村はそんな女の子に目もくれずにデジカメをピッピッと鳴らすと、そのディスプレイを女の子達に見せてニコリと笑った。

「コレ、バカな君達にも分かるよね?」

ディスプレイに映し出されたのは私がいじめられている現場。それは今日のみならず、今までのいじめすべてが詰め込まれてるんじゃないかというぐらい様々な風景が映し出されていた。なるほど幸村がいつも事後に出てきたのはそのせいだったのかと自己解決したとともに、何故幸村はこんな事をしているのかという疑問が出てきた。いままでの幸村の好意が同情だとして、写真を撮ってまで何がしたいんだろう。

「もういじめはやめた方が良いと思うな」
「それ盗撮だろ!」
「やだなぁ、こんなこと罪にはならないよ。それより自分の身でも案じたら?」

口角をあげ首を横に倒す幸村が本当に人間なのかと少し怖くなったけど、幸村の腕を掴むと実体もあり体温も伝わってきて、私は少し安心した。それから小さく舌打ちをして校舎側に歩いていく女の子達を見送った私と幸村は、すぐ傍の花壇の縁に腰を下ろした。

「なんで写真なんか撮ってたの」
「…君を助けたかったから」
「どうして?」
「君は強いと思ってた。どんないじめに屈さずに毎日登校してて…でも違った」
「違った?」
「泣かなかった君が初めて泣いた日、君を守ってあげたいと思った」

それから幸村は少し間を空け「僕に君を守らせてくれないか」と言って、私の手を握った。人の温もりを忘れかけていた私には十分すぎる幸村の温もりが、私の冷えきった心に優しく滲み始めていた。



20110907
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