【参萬打お礼フリーサクセラ♀ 堺さんのプロポーズ】
恭平と付き合ってからだいぶ経つ。同棲もしてる。
そろそろ結婚してもいいんじゃないかと思ってる。
プロポーズ…なんて柄にもないと自分でも思う。でも、あいつの事だ、きっとバカみたいに喜ぶに決まってる。
そんな姿がたまらなく愛しいと思ってしまう俺も、結構重症だと思ってるんだが。
■Marry me?■
恭平は朝から、友達とランチ行って買物して女子会してくると張り切って出かけていった。
一緒にいるのは多分達海さんとか清川とか椿とか、そのあたりだろう。
夕食は家で食べると言っていたから、帰りは夕方くらいか。
それまでに夕食の食材の買出しに行って、それから…。
「…しょうがねぇ、買ってくるか」
商店街まで来た。人で溢れかえる道路をすり抜けて、堺は一軒の店に入る。
綺麗に化粧をした若い店員がいらっしゃいませ、と声を掛けてきた。
(チッ、落ちつかねぇ…)
「今日はどのようなものをお探しですか?」
にっこりと笑顔で接客してくる店員に希望を伝えて、それに沿う品物をいくつか出してもらった。
手のひらに乗せたそれはとても小さくて、キラキラしていて、なんだか眩しかった。
シンプルながらも上品さを感じるデザインのものを選び、店員に渡した。
「ご用意いたしますね、お待ちください」
そう言って店の奥に消えた店員を目で追ってから、ぐるりと店内を見回した。
年配の女性客が一人、若いカップルが一組。カップルはえらくくっついてガラスケースを眺めてる。
アイツも連れて来た方が良かったか。そう思って少しだけ後悔した。
「お待たせいたしました」
楽しそうに微笑む店員が、小さな紙袋を差し出しながら声を掛けてきた。
「彼女さん、きっと喜ばれると思いますよ」
「だと良いんだけど」
苦笑いする堺。
店員は向こうにいたカップルに視線を移して呟いた。
「ああして一緒に選ばれる方も多いんですよ。彼女さんが選ぶ場合もありますし」
「………へぇ」
(あー、やっぱり一緒に選ばせるべきだったか…)
少しだけだった後悔がどんどん大きなものに変わっていく。
堺のそんな心境に気がついていたのか、店員はそのまま言葉を続けた。
「でも、女の子は大好きな人が自分のために一生懸命選んでくれたものなら、何だって嬉しいんです。きっと悩んだんだろうな、とか、買うの恥ずかしかっただろうな、って思うと嬉しさと愛しさでもう満たされちゃうんですよ」
「ウチの、単純なんだ。だからきっとそう思ってくれると思う」
視線を堺に戻した店員は、満面の笑みを浮かべた。営業スマイルなんかじゃない、心のからの笑顔だろうな、と堺は思った。
「なら大丈夫ですよ、絶対喜んでもらえます。私が保証します」
「ああ、おかげで自信がついた」
どうも、と礼をして店をあとにする。店員は外まで出てきてありがとうございました、と笑顔で一礼していた。
小さな紙袋を片手に、堺はその足をスーパーに向けた。
夕食の仕込み中に、恭平が帰宅してきた。両手には紙袋がいくつか下がっていた。
「ただいまっす!」
「おう、おかえり。楽しかったか?」
「はい!もうキヨさんにお店色々教えてもらって超楽しかったっス!」
紙袋をガサガサと漁り出した世良は、綺麗にラッピングされた包みをひとつ取り出して堺に渡した。
「あの、コレ…普段お世話になってるお礼っス!」
「俺に?開けてもいいか?」
コクンと頷いた恭平の前で、包装紙を外していく。
ビニールに包まれたそれは、腰巻タイプのシンプルなエプロンだった。
「俺とお揃いなんス!もっと一緒に台所立ちたいんで」
普段何か小物を買うときでもピンクだとか黄色だとかを好んで買う恭平が、俺に合わせて買った地味な黒地のエプロンを手にとって見せてきた。
心臓の奥の方を、鷲掴まれたような感覚を覚える。同時に、昼間立ち寄った店の店員の言葉が頭の中を流れた。
(…男でも同じ事言えるじゃねぇか。クソ…)
ほんのり赤くなる堺の顔に、世良も嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「ありがとな。…じゃあ、俺からも。ホラ」
「え?えっ?」
紙袋ごと手渡して、堺は視線を世良から逸らした。気恥ずかしさが込み上げる。
小さな小箱にかかったリボンを解いて、その中のケースを開ける。
銀色に輝くリングが、美しい光を放っていた。
「…良則さん、これって…」
「恭平、俺と…結婚してくれるか?」
マトモに顔が見れず、背中を向けたまま呟いた。しかし黙りこくった恭平に不安を覚えて、そろりと振り向く。
すると恭平は目にいっぱいの涙を浮かべていた。まばたきでポロポロと涙の粒が零れ落ちる。
「すっげ、うれし、っス…」
「バカだな、嬉しい時は笑うモンだろ」
頬をぶにゅっとつねってやれば照れたように笑う恭平につられて、思わず自分も笑ってしまった。
恭平の手の中の箱からリングを取り出して、指にそっと嵌めてやる。
「…自分で選びたかったか?指輪のデザイン」
「何言ってるんですか、良則さんが選んでくれたからこそ価値があるんスよ!」
「恭平…」
「って言うかコレ、良則さんひとりで買いに行ったんスよね?恥ずかしかったでしょう」
「………まぁな」
「そこまでして俺のために頑張ってくれたんだって思っただけで、もう心がいっぱいっス!」
嘘偽りの無い心からの笑顔と言葉。そして自分の左手を見つめてうっとりとした彼女の顔は忘れられそうにない程美しかった。
「…今日の晩メシはお前の好物ばっかにしといたぞ」
「やったぁ!手伝いますよ」
「ああ、頼む」
先程渡されたばかりのエプロンを腰に巻く。
後ろで恭平がえへへと笑っている声が聞こえた。
自分が選んだものを相手に喜んでもらえると言う事は、誰もが嬉しいと思う。
俺も恭平も例外ではなくて。
恭平に買ってもらったエプロンを着けた俺の隣に、俺が買った指輪を嵌めた恭平が立つ。
「今度は好きなアクセサリーでも買ってやるよ。良い店見つけたんだ、今度一緒に行こう」
「俺も今日キヨさんに教えてもらったお店に、良則さんを連れて行きたいんス!オシャレで格好いい雑貨とかいっぱいで、良則さん好きそうだなーと思って―…」
お揃いだったり、二人で共有するものがどんどん増えていく。
指輪、エプロン、店、それに時間、空間、呼吸でさえも。
そしてこれからは人生も、共有していける。
あまり器用な方ではないけれど、お前が許してくれるなら俺はいつまでもお前の側にいる。
恭平の左手の薬指に光る指輪がキラキラと光っていた。
まるで俺たちのこれからの輝かしい人生を指し示すかのように。
END