変わらない貴方と | ナノ

ハマが甲府へ引っ越してしまって1ヶ月が経った。
本人が悩んだ結果決めた事とは言え、やはり寂しいのは否定できない。
頑張って来いよ、って笑って送り出す事はできたけど、新幹線が出たあとホームで号泣してしまったのを覚えている。
優しく髪を撫でる手の感覚を思い出して、時々泣いてしまう。
それだけじゃない。
抱きしめてくれる力強い腕とか、キスしてくる少しカサついた唇とか、丁寧に愛撫してくれる指使いとか、自分を貫く熱の熱さとかまで全部覚えている。
(触れて欲しい)
思い出しているうちに切なく痛む、胸にぽっかりと空いた穴を埋めるように、俺は下肢に手を伸ばした。



■変わらない貴方と■



「ンッ…!」

夜毎繰り返された行為を思い出すだけで、清川の膣はしっとりと湿り気を帯びていた。
入り口を指でなぞる。花弁を押し広げて、石浜の為に存在していると言っても過言ではないその孔にゆっくりと指を押し込めた。

「痛…」

濡れていない訳ではないのだが、十分とは言えない愛液は指を進めると足りなくなって清川の体内に乾いた痛みを与えた。
こんな痛み、処女を失った時だって石浜から与えられる事などなかったのに。

「ハマって上手なのかな。ハマしか知らないからわかんないや…」

指を動かそうにも、どう動かせばいいのか分からない清川。
石浜にされた時の事を思い出そうと目を閉じた、その時、携帯電話が鳴った。
空いている方の手で取り、画面を見れば"ハマ"の文字。
自分が今どんな状態か頭から抜け落ちる程テンションが上がった清川は、迷わず通話ボタンを押した。

『もしもし、キヨ?』
「うん。ハマ、元気だった?」
『あぁ、それなりにやってるよ』

一週間ぶりに聞く恋人の声に、心臓がトクントクンと高鳴った。

『前電話したの一週間前か、待たせちゃってゴメン』
「いいよ、色々忙しいだろ?」
『ありがとな。キヨは?今何してた?』

そう聞かれて、清川はハッとして顔を赤くさせた。
下着の中に突っ込まれた手と、自分の中に突っ込まれた指。
こんな状況を知られでもしたら恥ずかしくて死んでしまう。
なんて考えていると、電話の向こうにいる石浜がからかうような声で話しかけてきた。

『もしかして、俺に言えないような事?えっちな事してんじゃないのー』
「―ッ!!」
『…え、マジ?』

否定すれば良かったものの、言い当てられて思わず息を飲んでしまった。
それで察した石浜も驚いたような声で呟いた。

「ちが、えっと…」
『キヨ、寂しい思いさせてゴメン』
「………ハマの、ばかぁ」

清川の目から涙がポロポロと零れ落ちる。
グスッと鼻を啜る音で、石浜にも清川が泣いている事が伝わった。

『泣かないでよ、キヨ』
「ハマの事、考えると…涙出るし、夜とか…思い出して、触って欲しいって、思ったら、切なくて…」

時折しゃくり上げるように息をしながら紡がれる清川の言葉。

「今も、自分で触ってみた…けど、きもち、よくなくて…ハマが、触ってくれる時は、き、きもちいい、のに…」

段々と恥ずかしくなってきた清川の語尾が小さくなる。
電話の向こう側で、自分の彼氏はどんな表情をしているのか気になる清川だったが、当然確認する術は持ち合わせていない。
押し黙ったままの石浜に不安を覚えて、フォローを入れようとしたその時。

『俺が触ってあげるよ、キヨ』
「へ、何言って…」
『目ぇ閉じて』

優しく放たれる言葉に包まれたような気持ちになって、清川はとりあえず石浜の言うとおりに目を閉じた。

『今、身体どうなってる?』
「ゆ、指…一本入ってる」
『えっちだなぁ、キヨは』
「…言わないでっ…!」
『そんなキヨも大好きだよ』
「もう、ばかぁー…」

胸がきゅぅぅと音を立てるように痛んだ。じわ、と埋めた指先に水分を感じて、清川は驚いた。
(ハマの声、聞いてるだけなのにっ…!)
自分の身体はいやらしいのだと自覚してしまった清川の身体は、開き直るように蜜を溢れさせ始めた。
指を動かしても痛みはなく、クチュクチュと水音が鳴る。

「はぁっ…」

吐息が思わず零れて、携帯電話の存在に気付いた清川は慌てて口を閉じた。
石浜は至極優しい声で清川に言葉をかける。

『聞こえてるよ、全部。吐息も、やらしい音もぜーんぶ聞こえてる』
「言うなってば…!」
『もっといっぱい触ってあげるよ。指、増やしてごらん?』

言われるがままに指を増やす清川。もうまともな思考回路など、石浜の耳を擽るような甘い声でどこかへ行ってしまっていた。
ぬぷぷっと音を立てて飲み込まれていく指に、清川はぶるりと身震いした。

『入ったら、ゆっくりでいいから動かして』
「ひぅ…あぁんっ…」
『上手だね、可愛いよ…』
「はまぁ…」

飲み込んだ二本の指が自分の中で動く。
動かしているのは自分なのだが、聞こえてくる石浜の声と閉じた瞼が清川の脳裏に石浜の姿を映し出して、その事実を忘れさせた。
触れられている部分が熱くて蕩けそうになる。
でたらめに動かしていた指先がある部分を掠めると、一層強い刺激が清川の体内を駆け巡る。

「ぁ、きもちい…」
『そこ、もっと擦ってごらん』
「な、なんでわかるの」
『キヨのイイ所は全部わかってるよ』

その言葉に子宮がキュンと切なく収縮する。
切なさを埋めるように指を増やし、先刻感じた部分を執拗に攻めた。
じゅぷじゅぷとはしたない水音が部屋にこだまする。

「あっあっ…ダメ、もイっちゃう…!」
『イっていいよ、キヨ…愛してる』
「はぁあああーっ!!」

絶頂に達して頭が真っ白になった清川。甘い快楽が脳に響き、身体は小刻みに震えて目からは自然と涙が出た。
全身から力が抜けて、くたりとベッドへ倒れこむ。
引き抜いた指にはべっとりと愛液が絡みつき、指同士を透明な糸が繋いだ。
その手を洗う気も起きず、余韻に浸って身体をマットレスに預けた。

携帯電話の存在を思い出したのは数分後。
慌てて携帯を確認すると、既に通話は切れていて画面は真っ暗になっていた。
(あー…淫乱な女だと思われたね絶対。嫌われたらどうしよ)
携帯電話の画面よろしく暗い思考のまま気だるい身体を起こして、水道で手を洗った。
シンクに跳ねた水がぴちゃりと音を立てる。
先程まで耽っていた行為を思い出して、頬がカッと熱くなった。

ピンポン、と玄関のチャイムが鳴る。
時計を見ればもう10時を過ぎていて、一体こんな時間に誰が、と思いつつ玄関の覗き穴を覗き込んだ。
そこで清川は言葉を失った。
震える手で鍵をあける。ドアノブが勝手に回って、戸がゆっくりと開いた。

「キヨ」
「………ハマ!」

玄関に上がり戸を閉めるなり抱きついてきた石浜に、何故彼がここにいるのか理解できない清川は混乱する。

「なん…で…?」
「キヨがあんまり可愛いから、我慢できなくて会いに来ちゃった」
「ウソ、こんな早く来れる訳ない」
「はは、やっぱバレたか…実は休み取れたから、キヨにナイショにして驚かせようと思ってこっそりこっちに帰ってきてたんだよ」

笑いながら話す石浜に、清川は先程の行為に没頭した事を激しく後悔した。
思わずため息と共に本音が漏れる。

「…あんな事するんじゃなかった…」
「すごい可愛かったよ?」
「わー!何も言うな!」

顔を真っ赤にして石浜の口を手で塞ぐ清川。
その手を取った石浜は両手で清川の手を優しく包み込むと、真剣な表情で目線を絡ませた。

「ね、キヨ」
「…な、なんだよ」
「続き、しよ?」

チュ、と手に落とされたキスに、再び顔が赤くなった。
身体は正直なもので、もう子宮がキュンキュンと疼いていた。
次こそは最愛の人の手でイかされたいと思う気持ちに歯止めが利かなくなる。

「寂しくて、胸に空いちゃった穴の分、埋めてくれる?」
「俺の全部使って埋めてあげる。…いや、埋めさせてください」

ニッと口角を上げた二人は唇を重ねた。
久しぶりに触れる恋人の唇は覚えていた通り少しカサついていて、清川はふふ、と笑った。

「なんだよ」
「ちっとも変わってないなって思って。ちょっと安心した」

そんな事を言う自分は前より少しえっちになったかな、と思った清川はまた小さく笑った。

END.
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