アジトの外、佇んで夜空を眺める人影を見つけた私は毛布を片手にその人物へと近付いた。そして「何してるの?」と私が尋ねる前に最初から分かりきっていたのだろうか、落ち着いた言葉が小さく響いてきた。

「…星を見ていた」
「随分ロマンチストじゃない」
「お前は?」
「イタチを見つけたから来たの」

はい、と毛布を差し出して私は隣に腰を降ろした。確かに夜空を見上げると星が美しく輝いている。暫く魅入っていると、肩にふわりと温かさが伝わってきた。イタチが毛布を掛けてくれたのだと理解し、大人二人では小さすぎると何も言わずに距離を縮める。一つの毛布に温め合うように包まって、私達は再び上を見上げた。

「…今日は、」
「ん?」
「今日はオレの、誕生日なんだ」
「…そう」

静かに夜空を見ていたイタチはふとそう言って、またすぐに黙り込んでしまった。暁では仲間内であまり自分の事を話さないので誕生日を知らないなんて事は大して珍しくもなかった。事実、私の誕生日だって誰も知らない。そんな事よりも私は何故イタチがそんな話をし出したのかが気になっていた。イタチは馴れ合いを嫌がると思っていたので尚更、イタチの真意がわからない。

「…あと30分位で日付変わるよ」
「そうだな」
「もっと早く言えばいいのに」
「祝って貰いたい訳じゃないからな」
「でも、明日何かプレゼントするよ」
「余計な気を使わなくていい」

そう言われても此方だって引き下がるつもりは更々なかった。密かにだが、心から慕う人の誕生日を祝いたいと思うのは当然の事だ。しつこく言う私についに観念したのか、イタチはため息を一つついてからゆっくりと言った。

「…それなら、一つだけいいか」
「もちろんよ。何?」

「オレを、赦してくれ」

彼が発したその言葉は肌寒い闇に溶けていった。私は何も言えなかった。だって彼は私に赦しを請っている訳ではないとわかったから。私ではない別の何かに赦しを請うているんだろう。私は彼の過去をよくは知らない。だけど犯罪者の集まりである私達は皆心に闇を抱えている者ばかりだ。彼だって例外ではないのだろう。だからせめて、私だけでも彼を赦そうと思った。

「…赦すよ」
「!」
「イタチを、赦す」

震えていたイタチは私の言葉を聞いて少しだけ微笑んだ。だから私もつられて微笑み返した。「生まれてきてくれてありがとう」私がそう言うと、イタチは今まで見たことのないような優しい顔をして「ああ」と呟いた。



あなたのことが好きです

(闇の中、二人は手を繋ぐ)



HAPPYBIRTHDAY
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