久しぶりに訪れたグリーンの部屋は、とても落ち着いていた。どんなときだって安心を覚えられるから、僕はその場所が大好きだった。幼いころはどちらの家で遊ぶかと迷った時、とりあえずグリーンの家に行ってナナミさんから、いくつものお菓子をもらったものだ。だけど成長していく糧の中、旅に出た僕たちはグリーンの部屋に行くことも、ましてやマサラタウンに変えることも少なくなってしまっていたね。やっと今、僕は何年ぶりかのその場所に足を踏み入れる。無断だったけど。
「じゃあレッド君、グリーンが帰ってくるまで、ちょっと待っててね」
「あ、はい」
「ねぇ、お菓子食べる?」
「いただきます」
もらえるものは、もらっていこう。それでもって、持ち帰ってしまおうか。ナナミさんのお菓子はどれもおいしいものばかりだ。思い出される昔のことも、今じゃいい色をしている。歩き回ってみたグリーンの部屋はきちんと整理されている。目についた机の上も、きれいに整頓されていた。
早く帰ってこないかな、グリーン。あんまり遅いと帰っちゃうよ。鉛筆を手に取り、何度もないような文字を机の上に残して、僕は部屋をあとにした。何故か僕の心は今、高鳴りに溢れている。
…
「姉ちゃん!レッドが帰ってきたって本当?!」
「ただ今ぐらい言いなさいよ」
「で、レッドは?」
「あんまりグリーンが遅いから、帰っちゃったわよ。お菓子だけ持って」
「あいつ…!」
確かに遅れてしまったことは悪いと思っている。突然姉からの連絡に反応が遅れたのも、落ち度は俺にあったんだろう。だけど、別に、帰ることないじゃないか。会いに来てくれたとこっちは思ってたのに、結局は姉ちゃんの菓子もって終わりかよ。全くいつになっても腹立つな。
仕方なく、部屋に戻って疲れた体をベッドにダイブさせた。肌触りのいい布団に包まれ、何時間寝たのか分からないが、目が覚めたとき、あたりは薄暗くなっていた。窓際に近づき、カーテンを開けるとほんのりと電灯の光が差し込み、机の上を照らす。そこに見えてきた小さな文字に、俺は目を疑った。
またくるね。
小さく、そして短く書かれたメッセージ。それが誰からのものかなんて言わなくてもわかる。少しだけ、温かい気持ちになれた。
/叶わないから美しい