テキスト | ナノ

酷いことを言った。最低だ最低だ。駆けめぐるのは後悔だけで、嗚呼なんとも歯がゆい。何が悪かったって、そんなの全部俺が悪いわけだから原因なんて明確に分かっていることなのに、どうしてもその一言が出てこない。たった一言、言ってしまえばいいことなのに。何に強情を張っているんだ俺は。くだらない。こんなつまらないことで意地を張ったのは昔、レッドにお菓子を横取りされていじけた以来だ。今思えばそのこともくだらなくて、結局俺はくだらないことばかりで気を悪くしてばかりだ。くだらねぇ。
そう、ただ一言「ごめんね」と言えばいいことなんだ。だけど俺は自分で言うよりもレッドから言う方が先だと頭の何処かで考えている。あいつ俺を何だと思ってるんだよ。親友?あぁ確かに間違ってない。間違ってないとも俺はレッドの親友さ!だけど、親友にも態度ってモンがあんだろ。思い出すだけ腹が立つ。誰を心配したと思っているだか。帰ってきた言葉が「はぁ何それ」と気の抜けた返事なら尚更だ。俺は悪くない。
だけど、ずっとずっとこの状況が続くことは望まない。俺はきっと、本当は心の底からあいつと笑い合える日々が戻ってきて欲しいだけなんだ。だから、だから俺が謝らなきゃいけないのに、あいつのいる場所まで行く術さえも分からない。クスリと笑う声が聞こえた。姉ちゃんだ。

「何だよ笑いやがって」
「別に。悩むことは大切よ」
「……俺、どうすりゃいいのかな」
「……グリーン、どうすればいいのかなんて、どうしたいのかと同じよ。レッド君に謝りたいと思うなら、謝ればいいのよ。分かる?」
「うん」

さぁほら行きなさい、と半ば追い出されような形で俺は家を出た。あいつは確かしばらくの間は家にいるって言ってたな。家が近いというのは実にいいことで悪いことだ。昔は遊ぶために行くのに数時間で足りる距離に感謝さえしたものの、今その数時間では決意さえもままにならない。

「おい、レッド」
「………何」
「あからさまに嫌そうな顔するなって」

当然と言えば当然と言える反応が返ってきた。名前を呼ぶだけで眉は下がり、「何だこいつか」とでも言いたげの目が俺を襲う。何かショックだ。

「レッド、レッドあのさ」
「……グリーン。ごめんね」
「は?」

俺が言うべきだった4文字が、なんとレッドの口から出てきた。驚くのも束の間、いきなり頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。いてぇいてぇ、これじゃ髪が変になるだろ!文句を言う前に笑われた。「いつものグリーンだ」……変な奴だこいつ。
まるでこの間までの険悪の空気は嘘のように心地よい風が俺とレッドの間を流れた。きもちいいな、不意にこぼれてしまった一言にレッドが反応する。「昼寝したいなぁ」余りにも抜けた言葉に笑いが止まらない。そうそう、俺こういう風に、レッドと笑い合いたかったんだよな!



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