※スタウェン前提のスタカイです
スタンがウエンディと付き合うって話を聞いて、僕は嬉しかったんだ。だってそうだろ、親友の幸せを一緒に喜ぶのが、本物の親友さ。僕はスタンの親友なんだから、彼の幸せは嬉しいに違いない、そうに決まっているんだ。そうそう、だから僕が恋人たちに気を遣って遠慮げになるのは当たり前のこと。朝だって時間をずらして学校へ行く、なるべく近くには寄らないようにする。ね、そうすればきっと、あの二人は幸せになれるんだ。本当は本当は、スタンと変わらずお喋りしていたいけど、僕が少し我慢すればいいだけのこと。本当は本当は、スタンをウエンディに取られて少し悔しいけど、僕のスタンじゃないからそれは諦めなきゃいけないこと。さぁて、僕も彼女作ってみようかな。お気楽な考えを頭に浮かべ、一人の帰り道を歩いていく。嗚呼、こんなにもこの道は静かだったかな。うん、やっぱりちょっと寂しいや。今度思い切って、スタンに一緒に帰ろうって誘ってみようかな。少しくらいは、いいよね。
家に着くと、静かに電話が鳴っていた。ママもパパも出ないのかな。仕方なく受話器を手にしてみると、何と相手はスタンだった。うわぁ久しぶりだ。どうしたの?嬉しい気持ちがバレないように、平静を装って話しかける。すると何やら無愛想な声が返ってきた。「なぁ今から俺ん家来いよ。話したいことあるんだ」……妙に真面目な声だ。ちょっとだけ緊張が走った。「分かった」一言答えて電話を切る。何かスタンの声、無愛想と言うより、怒っていたような……?僕、何もしてないんだけどなぁ。仕方ない、とりあえずスタンの家に行こう。考えることはそれからだ。
……………
………
…
あれ、あれ。何でこんなことになってるんだろう。待ってちょっと待てよ。状況が上手く飲み込めない。ここって何処だっけ?スタンの部屋だ。ここには誰がいる?もちろん、スタンの部屋なんだから僕とスタンがいる。じゃあ、どうなっている?――僕はスタンに押し倒されている。スタンの家に行くととりあえず部屋に案内され、そして強引にベットへ押し倒された。何で何で何で!おかしいだろ、どうして?僕はスタンの親友だ。そう、大切な親友だ。親友が親友に押し倒されてるって、これってどういうこと?大体こんなことは恋人のウエンディとやればいいのに……どう考えても、分からないことだらけだった。ただスタンだけはやけに静かな目で僕を見据えている。
「あ、あの、さ、スタン。話したいことって、何?」
「……直球に言うよ」
「うん、何?」
「このままやってもいい?」
「は、はぁ?!」
自分でも驚くぐらい大きな声が出たと思う。だってだって、そんなの、意味は分からない!やる?それって、アレだよね。恋人とかがするあれ。そう、セックス!それを、今から僕と?何を寝ぼけたこと言ってるんだスタン!いつものクールなスタンじゃないよ!思っているだけで口からその言葉は出ない。何だか、怖くなってきた。
「ちょ、ちょっと待ってもらってもいい?」
「いいよ」
「やるって、その、セ、セックスの方かい?あと何で僕?僕が男だってこと、スタンは分かってるだろ?ねぇもしかして君、ゲイだったの?そうなの?っていうか大体、ウエンディはどうなってるんだよ!こんなの、ウエンディとやれよ!」
「一斉に質問されても分かんないよカイル」
「あ、ごめん」
とりあえず、僕が一番聞きたいことを口にしよう。混乱した頭に早急な整理は難しい。僕が一体、何を聞きたいんだ。セックスすると言い出すスタンの心情?それともその相手が男である僕だってこと?それとも、スタンには恋人のウエンディがいるのにってこと?嗚呼全部聞きたい。ひとつに纏めること何てできないよ。頭を抱える僕のまぶたにそっと、優しい感触が与えられた。スタンが、キスした。ますます混乱してしまいそうだ。
「あ、あ、あ、す、スタン!きみ、分かってるの?」
「うん、もちろん」
「僕は分からないよ!君、ウエンディっていう恋人がいるじゃないか!な、なのにセックスしようだなんて、馬鹿げてる!」
「何でだよ。俺はカイルが好き。はい、問題解決」
「まだ解決してない。じゃあウエンディのことは好きじゃなかったの?」
「ウエンディも好きだよ。でもカイルも好き」
「きみすっごく最低だね」
僕はスタンの親友だから、きっとこんなことを言っているスタンを蔑むような真似はできない。だけどなんだろう、呆れているというかショックというか、絶望したというか……明らかにいい気分ではないんだ。スタンが僕を好き?いや、そんなこと今突っ込むべきことじゃない。僕が言いたいのは、ウエンディも好きで僕も好きって平然と言うスタンに驚いているんだ。ねぇどうして、どうしてそんなおかしなこと口にするのさ。
「ウエンディのことは普通に好き。だけどカイルが好きなんだ。もっとこう、何て言うかな深い感じ……?」
「ごめん、全然分からない」
「いいよ分かんなくても。でも大丈夫。本当にカイルのこと好きだから」
そう言ってスタンはまた僕にキスをした。今度はまぶたじゃなくて、唇に、そのふわりとした感触を押さえつけてくる。何が大丈夫、だよ。どこも大丈夫なんかじゃない。嗚呼もういいよ、どうにでもなれ。
/ある愛の話
かたりさんへ相互記念として捧げます。相互ありがとうございました!