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昔のことだけど、スタンは覚えているだろうか。いや覚えていないかも。だって僕自身も何だか随分曖昧な記憶になってしまっているから。何歳くらいかも忘れた。ただ、僕たちまだ幼かったよね。あの頃はよく泣いたし、よく笑った。……って、今でもそう変わらないか。僕たちあの頃から変わってない。お互いのこと大切だって思ってるし、お互いが隣にいるということも。ただ変わったのは、気持ちだ。僕はいつからスタンと話すとき緊張が走ったり頭の中が真っ白になったりしていたんだろう。逆にスタンは、いつから僕のことそんな風に見ていたの?分からないことだらけだけど、今があるからそれでいいじゃんっていう気持ちもある。要するに、終わりよければ全てよしってね!スタンは僕のこと好きで、僕もスタンが好き。ゲイだけど、ゲイじゃない。いや違う。どっからどう見ても、僕たちゲイだね。でも仕方ないよ。だってスタンのこと好きなんだから。

授業がつまらないからという理由で始まった思考も、何だかんだ考えればゲイっぽくて気持ち悪い。ときどきスタンと目が合うけれど、ちょっとだけ笑った。そうしたら僕が聞こえるぐらいの小声で囁く。「何ニヤついてんだよカイル。気持ち悪い」……嗚呼、僕は気付いてないだけで、もしかしてすごく笑ってた?あああいやだ!スタンに見られちゃったじゃないか!でも、スタンならまだいいよ。っていうかスタンだからいい。本当僕って根っからスタンのこと好きなんだな。回されたプリントは正直要らなかった。だから端の端を小さく千切り、小さな疑問を書き込む。「スタン、僕のこと好き?」我ながらバカっぽくてゲイっぽい。何でこんなこと知りたいなんて思ったんだろう。別にいいよね。見つからないように小さな動作でスタンに回す。ここからでも分かるよ、スタンの行動。切れ端を見た瞬間、驚いたように目を見開いて僕を見た。嗚呼、答えが楽しみだね。きっとスタンなら好きって言ってくれるよね。だって僕たち、両想いなんだから。分かっていても聞きたいことってあるだろう?その時期が来ただけさ。だから何の狼狽えも要らない。ただ好きの一言を言ってくれたら、僕はすぐに満足してその腕に僕の腕を絡めたい。もちろん、帰り道にやろうね。


……………
………



「カイル!お前ちょっと来いよ」
「え、何スタン」
「いいから!」

授業が終わるといきなり呼び出された。別に逆らうつもりなんてないのに、強制的に腕を引っ張られ連れて行かれたのは人気の少ない廊下。嗚呼ここ、ちょっと寒いな。そんなことお構いなしのようにスタンが振り向き、僕の目の前であの紙の切れ端を突き出す。「何だよこれ!」そんなもの、見れば分かるじゃないか。

「スタンへの質問」
「何でそんなもの授業中に回すんだよ!」
「聞いてみたくて」
「ばれたらどうするんだよ!特にカートマントか!」
「……ごめん」

確かに、カートマンに色々言われるのは面倒だ。別にそこまで考えてなかった訳じゃないけど、ただ僕は聞いてみたかっただけ。そんなに怒らなくてもいいじゃないか。ふてくされた僕にやっぱり、スタンは構ってくれない。ただ腕を引っ張られると、キスされた。え、何。何これ。一瞬の出来事だったか何が起こったのか分からないよ。ただスタンの顔が少しだけ赤かった。……なんだあれ。込み上げて来た笑いを抑えるのが大変だったのは、きっと今この時間がどうしようもなく愛しいと感じたからだ。



/透明な愛だから盲目になるの



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