「いってぇ」
「……バカじゃないの」
「うるさいなーちょっと転んだぐらいだろー」
「……ほんと、バカ」
うるさいだの何だの、横で小言を呟くのは冷たい顔をしているマイだった。くそ、何だよどいつもこいつも。兄貴も俺のこと呆れたような顔して見やがって……兄貴こそ、いい加減そのふざけたアフロ止めろよな!言ったら普通に殴られたけど。大体、何で俺がマイにあーだのこーだの言われなきゃならねぇんだ?俺は自分のしたいようにテンガン山へ行って、自分のしたいようにしたら転んで怪我しただけだ。それがちょっと大袈裟な怪我だからって、ぶつぶつ言われるのも溜まったモンじゃない。
あーでもミルとか来たら面倒だな。あいつはぶつぶつ呟くより悲鳴に近い叫びで耳元でうるさいんだから。この間も怪我したとき、マイじゃなくてミルに診てもらったら「何やってんのよバク!ほんっと、バカなんだから!!」あーうるせーマジうるせー!何で俺の知り合いで歳の近い奴って、こうも面倒なのが多いんだろ。ちょっとイライラしてきたけど、小うるさい奴より、まだぶつぶつの方がマシだな。
じっとマイを見つめたら睨まれた。「……何?」だめだ、こいつミルよりまだマシだとしても、愛想がないもんなぁ。はぁ、とひとつため息を吐いて、言ってやった。余計なお世話?そんなの関係ねぇって。
「マイ、ひとついいこと教えてやるよ」
「何」
「お前元はいいんだから、もっと愛想よくしろよ。男できねぇぞ」
「……うるさい、余計なお世話」
あ、やっぱり余計なお世話って言われた。何だよ、人が折角親切に教えてやったっていうのに、ほんとかわいくねぇ。彼氏とか作んねぇのかこいつは。俺は早く彼女とか欲しいのにさ。だからその前にテンガン山で色々お宝見つけるってわけよ!だから怪我のひとつやふたつで弱音なんて吐いていられねぇ!お、最終的にこういう話で纏められるって俺、天才かすげぇ。
「……はぁ、ほんとバカ」
「何か言ったか」
「……人が折角心配してるのに、何かバカみたい」
「え、もう一回言って」
「いや」
やっぱりこいつかわいくねぇ。でも、まぁいっか。こいつがいきなり愛想よくなったって、ちょっと引くもんな!
言葉に出してないというのに、思っただけで振り向き睨まれた。こいつ、面白れぇ。
/ささやかな愛らしい謎を堪能