何もすることがなくて、床で寝転がっているモールは随分と暇そうだった。流石に部屋で煙草を吸おうとしたから怒鳴って止めたけど、舌打ちして一応ケースをしまってくれた。でも、暇そうだった。一緒に勉強でもするかい?なんて冗談交じりの無駄な誘いを振ってみたけど、舌打ちされた。どうやら僕が思っているよりもずっと、モールの機嫌はよろしくないみたいだ。何だか、僕も気分が悪くなってくる。立ち上がって近寄り、とりあえず宥めるように髪を撫でてみた。
「なんやハゲ」
「ハゲてない。…きみ、髪結構伸びたね」
「それが何やねん」
「んー僕が切ってあげようか?」
「ハゲが移るでええ」
「ハゲてないってば」
機嫌の悪さが、会話にも滲み出してしまっている。よく見てみると、貧乏揺すりなんてきみらしくないのに。珍しくそれをしているなんて、相当だ。もしかして、僕が勉強ばかりで構ってあげないからかい?……本当に冗談だって、だからそんな怖い顔で睨まないでよ。いつもなら笑顔で「いっぺん死ぬかハゲ」で終わる物事も、本当に笑えなくなってきてしまった。
何かしたいことはあるかい、聞いてみてもモールは答えない。遅れて首を横に振っただけだった。嗚呼、僕もそろそろ我慢の限界が近いのかもしれない。そんなに暇なら、帰ったらどうだい。言って後悔した。どうして大嫌いな僕の部屋にモールがいるのか、少し考えれば簡単なことだったのに。案の定、モールは何も答えずに立ち上がった。「ほんなら、帰るわ」
思わず飛び出た手が、モールの腕を掴み引き寄せる。間に合ってよかった。
「離せや」
「ごめん、僕が無神経だった。…何もしなくていいから、いていいよ」
「何やその上から目線。うっざ」
「帰るの?」
「……帰らへん」
その以後は黙り込み、部屋の隅の方で蹲ってしまった。やっぱり、僕が無神経だった。今何か言えば、それは全部言い訳のようにしか聞こえない。僕の勉強が終わったときにでも話しかければ、きみは機嫌を直してくれるかな。
/ひんやりと髪を切った日