濃い青色が好きやねん、そう言って彼女が手に取った青いポーチははっきり言って地味。ダサい。かわいくない。
それが、うっすらチェック柄が入っていたり金の豪華なエンブレムだったりがついていたら、プレッピー風でとてもかわいかっただろう。私も飛びついて黄色い声を上げたに違いない。けれどスペインが見つめるポーチの色は地味すぎるくすんだ青色。おばあちゃんの鞄の中から出てくる巾着の色、そんな感じ。
しかしどうして青色なのか。スペインの笑顔に湖の底のように静謐な青色はまったく似合わない。

「(だれの影響なんだか。)」

スペインは人の影響を受けすぎる。街を歩いていたお兄さんのスニーカーを素敵だといい、数日後それと似た(けれどどこかおかしな配色の)スニーカーをご機嫌で見せびらかしたり、好きなアーティストもテレビの影響を受けてひと月ごとに変わったり。フランスが髪を切った次の日に同じ髪型にしてきたこともある。まったく、双子のように同じに。

「(思えば、スニーカーも最初はフランスがかっこいいと言い出したんだ。)」

あのお兄さん素敵ね。スニーカーの柄がすごくいい。三人並んで歩きながら、会話の切れ目にフランスが人だかりの中を指さしたのだ。アーティストだって、フランスが何の気なしにいいわね、テレビでもよく流れてるわ、と言ったアーティストばっかりだ。
急に額のあたりが重くなって、意地悪な声を抑えられなくなった。

「やめなよ。そんな色、かわいくない。」

「プーちゃん嫌い?めっちゃかわいいやん。」

「変。全然かわいくない。おばあちゃんみたい。ダッサイ!」

畳みかけるように言うと、彼女は丸く大きな目をさらに見開いて怪物か何かを見るようにこちらを凝視した。そして、私が喉の奥に溜まった空気を静かに飲み下すのと同時に、寂しそうに目を伏せてしまう。
ちがう。こんな顔をさせたかったわけじゃない。違う。違うの。

「あ……、かわいいと思ってんけどなぁ。この青色。」

「……フランスも、藍色が好きだってこの間言ってた。」

「そうなん。あたしもな、藍色好きやねん。めっちゃ好き。」

ずーっと前から好きやねん、なんて、気を使って作ったのがばればれの笑顔。私の酸素を奪っていく。
馬鹿。あんたが本当に好きなのは藍色やヒットチャートのアーティストや派手なスニーカーじゃなくて、フランスじゃない。あの子の好きなものを好きになることでごまかしたって、全然無駄なんだから。
簡単なことじゃない。自分の本当に好きなものくらいわかってなさいよ。好き嫌いなんて動物園の猿にだってわかるわよ。
本当に、バカみたいに鈍感なんだから!

熱く痛む口の中で震えて縮こまる舌を噛んだ。力の抜けたくちびるが思いがけないことを口走らないよう、思い切り。
肉の先がびりびりと痛んで余計にいらいらが募る。スペインはいきなり不機嫌になった私から逃げるようにポーチを二つ手にとってレジへ向かう。きっと、もうひとつは藍色が好きだというフランスにプレゼントするのだろう。フランスだけが好きな藍色のポーチを。

「(気付いてよ馬鹿気付いて。あんたはそんなポーチ好きじゃないそんな色好きじゃない。あんたが本当に好きなのは、)」

そして、私が本当に好きなのは。

「(いい加減報われない恋だって気付きなさいよ……!)」

お願いだから気付いて、お願い。





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