人間は寝ているときに夢を見るんだって。夢って、頭の中に映像や言葉や音楽が流れて、その日にあった記憶や感情を整理しているんだよ。楽しい思い出も辛い記憶も消化して、心が平穏であるように働くんだ。精神に異常を来さないようにいつの間にかこんな仕組みが作り上げられたなんて、人間ってすごいよね。

おいらたちにはいらないんだけど。

「(いらないのに君はとても幸せそうに眠っている。)」

ねえバリケード。敵であるおいらがこんなに近くで君を見つめているのに、まったく目を覚ます気配がないんだから。
しっとりとした睫はおいらの気配を感知せず、その黒々とした根元はじっと閉じられて開く気配がない。
よくわからない男だな。そもそも睡眠なんておいらたちに必要ないじゃないか。呼吸することも眠ることも夢を見ることも。なのになぜ君は、わざわざこんな、一番無防備な姿を。
あまり賢くない頭を働かせて考える。罠だろうか。怪我でもしているのだろうか。新しいプログラムだろうか。
怪しい気配を見つけだそうと、神経を尖らせて横たわる男の観察を続けた。カラスみたいに真っ黒い前髪のその下。相変わらず閉じられた瞼。その表面。

「(瞼の皮膚が白い。)」

白くて柔らかそう。必要のないはずの呼吸によって彼の体が上下する度、薄いその膜がわずかに動く。さらさらとした表面。鱗粉をまとったみたいに青白く発光している。
知らず知らず、蝶々を捕まえる時のように瞬きさえ止めて気配を殺していた。喉の中の空気を飲み込み、擦り足で一層近付き男を観察する。
まっすぐに伸びるまつげの影。あわあわと紅潮した頬。わずかに開いた口から覗く歯。くちびるの上品な赤み。
くちびるの、

「(あか……、)」

体の中で何かが鳴った。時計のように決まった速度でカチカチと動くけれど、それは一秒より遙かに速いテンポだった。
赤いくちびるがため息のように大きく息を吐き出す。ただの呼吸だというのに、体の中が一層騒がしくなって逃げ出すこともせずただ立ち尽くすことしかできなかった。

いったい君はどんな夢を見ているんだろう。こんなにもそばに敵がいるのに、そんなことさえどうでもいいと思ってしまえるほどすてきな夢を見ているのだろうか。

君は、

「君はバンブルビーを好きになるバンブルビーを好きになるバンブルビーを好きになる。」

彼の耳にくちびるを近づけて繰り返した。
こんなこと、夢の中でしか言ってあげないからよく覚えておいてよね。







甘々なバリビが書けないから練習。


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