睫を、頬を、毛先をなでる。どうかばれませんように、ただそう祈って息をひそめていた。
背徳感と胸を騒がす何かが体の中で沸騰し、欲深い塊が体温をねだってどこまでも膨張いく。どうしてこうなってしまうのかはわからない。わからないけれど、感覚を研ぎすまし喉に詰まった小さな空気を嚥下して願っている。
どうかフレンジーにこの秘密がばれませんように。
柔らかく握った手のひらに力がこもった。

もっともっとずっとずっとこの時間が続けばいい、そう思うけれど、いつも10分ももたずに密度の凝縮されたこの時間は終わってしまう。要は勇気の問題なのだ。残念ながらそれは持ち合わせていないらしい。今の二人の関係が壊れてしまうのはどうしようもなく怖い。
あたしはもう一度喉に溜った空気を飲みこんだ。僅かな喉の震えが彼の繊細な睫の先に感知されなければいい。そう願ったけれど、あたし達を取り巻く空気は途端に現実染みたつんと冷たいものに変わってしまう。

「マギー起キロ。マタ遅刻スルゾ。」

「……おはようフレンジー。あたしなんだか夢を見ていたわ。」

あったかい夢。偽物のあくび混じりにそう言うと、フレンジーの動作は僅かに固くなってフゥン、と気のなさそうな返事を返す。

どうしてあたしに触るの。どうしてそれはとても優しいの。どうしてそれを秘密にするの。
聞きたいことはたくさんある。けれど、あたしはこの秘密もフレンジーと同じくらい好きだったから、わざわざそれを失くすような愚か極まりない真似はしない。たとえ人一倍強い好奇心が疼いてしまっても、気づかない振り知らない振りを決め込んでいる。

フレンジーは金属生命的な本能で何かを察知したのか、ベッドを下りて部屋を出て行ってしまう。
あたしの大好きな背徳の時間はほんの数分で終わった。二度寝しよう。満足感に緩む頬を意識的に直そうとするけれど、部屋を出ていくフレンジーの真っ赤な頬が可愛らしくて、どうにもそれは直らなかった。



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