私が、私が消えてなくなってしまったら、あなたは悲しんだりするのかしら

ファーストが言う

自惚れないでよ、とっさに返した言葉は少し裏返った高い音で彼女につっかかった

自惚れないで。バッカじゃない。あんたなんかいなくなったって悲しむわけないじゃない。あつかましいにもほどがあるわ、えこひいきのお人形さん。あんたなんかあんたなんか。

せいせいするわよ。ふんっとそっぽを向いて目をつむる。そこに焼き付いていたのはさっきあたしに問いかけた輪郭のあやふやな彼女の姿で、目を閉じてしまったがためにそんな不愉快なものをずっと見ていなくてはならなくなった
バッカじゃない。自分に対してだった。ファーストはあたしの言葉になにも言わず、きっとまぶたに焼き付いたその姿のままそこに佇んでいることだろう。それがあたしをイラつかせることとも知らずに

なんとか言いなさいよ
勢いよく向き直って睨みつけた視線の先に彼女の姿はなかった。彼女の影がないためにチカチカする夕日が真っ向から瞳を乾燥させて、数度瞬きを繰り返す

ああそうだ。あの時彼女は心底安心した表情をしていたんだ。
いつの間にか彼女は人間らしく微笑むことができるようになっていて、それを素直になれないあたしに向けるようにもなっていて、あたしは驚いたと同時になんだか少し悔しくて。

あたしが悲しんだとして、あんたになんの関係があるのよ。
瞬きを繰り返す瞳が鈍く痛み出して、合間合間に覗く夕日がぼやぼやと滲んでいった。
くすんくすん、夕日の向こうや体の奥やすぐ足元から誰かの泣き声が聞こえて、あたしは自分が心底悲しんでいることを自覚する




(アスカちゃんの精神世界)




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