男みたいに脚を組んでビール片手にげらげら笑って。女らしさのかけらもない、パジャマとメガネとノーメイクのやる気のないスタイルで機嫌よくアルコールを楽しむマギーからは、普段ゴミを出すのにもフルメイクと髪のセットを欠かせない彼女の面影は全く見られなかった。

まったくマギーは俺をなんだと思ってるんだ。金属生命体といえども一応俺は男なのだ。それも、年は若く、なかなかのルックスで、頭だってその辺の人間に比べたらずば抜けて良い、そんな値打ちのある男をだ。
それなのに彼女はというと、ゴミ出しで会うか会わないかのオバチャンの目を気にしてファンデーションを塗りたくるくせに、街を歩けば女共から熱い視線の百は送られるこの俺に対してはコンタクトを入れる手間すらかけていない。

マギー、お前はなんて女だ。泡の髭を作って、見て見て、なんてはしゃぐ彼女に心の中で悪態吐く。
お前はいくつなんだ。国防総省で働けるほど賢かったんじゃないのか。女友達にもすっぴんは見られたくないんじゃなかったのか。
アルコールは順調に彼女の理性を酔わせているらしく、俺の冷たい眼差しにも満面の笑みを向けて自身の姿を省みることをしない。

俺としては、マギーならばすっぴんでも寝癖がパンクバンドでも四六時中酒を飲んでいてもいっこうかまわないのだ。かまわないが、俺を男としてみていない、もしそれが彼女の手抜きの原因だとしたら、話はひどい方向へと変わっていくだろう。

「フレンジー、ニュースタイルひげー。」

「ハイハイワカッタワカッタ。」

「ちょっとー見なさいよー、このカイゼルスタイルをー!」

「アー、ミゴトナヒゲデスネー。」

「心がこもってなーい!」

手加減のない拳が額に直撃した。考えごと中のブレインサーキット内で無数の火花が星のように飛び、マギーの高い笑い声と共に痛みが頭全体に広がっていく。
酔っているとはいえあんまりじゃないか。抑えきれなかった怒りが額に深い溝を作って、思わず声を荒げた。

「痛テェゾマギー!」

「いてえぞまぎー!」

「フザケンナッテ!」

「ふざけんなって!」

ケタケタケタ。何が面白かったのか痙攣のようにまた笑う。呼吸困難になるんじゃないかと心配してしまうほど喉にひっかかる笑い声は、怒りを通り越し俺を疲れたような気分にさせる。
泡の髭は付いたままだし。引き笑いだし。酒臭いし。
馬鹿になったように笑い転げるマギーはあまりにうつくしくなさすぎる。

冷めた眼差しで眺めていた彼女から目を逸らしてソファに座り直した。なんだかやけに悲しくなって、もうマギーがそのまま寝てしまうか何かして俺のことを放っておいてくれたらいい、そう思っていた。

「ねるなー!ねるなねるなねるな!だれもねてはならーぬ!」

ため息を吐くまもなく酔っ払いの叫び。
いい加減にしろ。軽く殴ったらおとなしくなるのではないか、そんなアイデアが正しいことのように思えた。そうだ、頭に一発拳骨をして、寝ろ!強くそう言えば幼児返りしたようなマギーには効くんじゃないか。
拳を握って振り返りつつソファから立ち上がる。はずなのに、後ろからむんずと頭を掴まれ、無理な体勢で腰をねじった。
突然の事に硬直。口に何かが当たっていて、すぐに離れたかと思うと、それは見慣れた女の顔のパーツとして収まっていた。ノーメイクなのに、整った形と色。

「かわいい花嫁さんからおやすみのチューですよー。」

いひひ、ケタケタ、クスクスクス。彼女らしいいたずらっぽい笑い声。馬鹿みたいに無邪気な顔。ノーメイクでビールの髭なんか付けている。
馬鹿女。馬鹿女阿呆女脳みそスカスカ女。それなのに、俺は彼女の取り繕うことをしない無邪気な笑顔をうつくしいと思って、いつの間にか握った拳を緩くしていた。
くちびるの上、鼻の下に濡れたような感覚がある。

「……カイゼル髭。」

髭の下、あのパーツが重なった部分をぼんやり撫でることをやめられないでいる俺を余所に、馬鹿髭女のマギーは寝てしまった。

自分からキスをしたのに次の日には忘れてしまうのだから、彼女の酒癖は始末が悪い。





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