中禅寺龍一くんの連載1

父には変な友人が沢山いた。それが善いとか悪いとか、嫌だとか感想を持つほど龍一は気にしていない。親の交友関係を気にするほど龍一は繊細ではない。
この家を訪れる連中は、頭のイカれた外人の様な男だとか図体がでかくて人相の悪い男だとか碌な奴がいない。時折小柄で伏し目がちな男が来るが、一見真面そうに見えて実はあの男が一番ズレている。龍一は唯一あの男だけは少し気に入らなかった。
父は何処も奇怪しくなどないのに何故こうも家を訪ねてくる奴等は悉く変人なのか、不思議ではあった。
元教師だった父は龍一が物心ついた頃、自宅を増築して古本屋を始めた。それについて疑問は無かった。裕福とまでは云わないが金銭に困窮してはいないし、何不自由なく暮らしている。勿論、母も姉も父の転職に異議はなかった。
博識で、一見仏頂面だが実は優しい父を龍一は尊敬していた。家の裏には神社があり、父はそこの宮司もしている。それは凄いことだと、よく識りもせずそう思っていた。
父は知識や持論に至るまで、何一つ龍一や姉に強制しない。此方から質問するとかしない限り父自ら説法の様に語り出すことはない。はっきりとした根拠のないことは決して一言も口にせず、龍一が唯一言いつけられていることもそれだけである。
――根拠のないことは云うな、信じるな。
立派だと思った。だから姉も聰明で知的だし、自分もいつかは父や姉のように才覚を現すだろうと幼心に考えていた時期もある。だがそれは大いなる勘違いであった。龍一は自分に失望し始めている。
まだ中学生とは云え、自分は実に凡庸で詰まらない人間だ。何か秀でたものなど何一つないし、これと云って強く興味をそそられるものも見つからない。だから志もなければ、信条すらない。
臆病で卑怯だし、何より気が小さい。くよくよと悩むのが大いに得意で、周りの目が気になったり少々卑屈気味でもある。そういったことを周りに悟られぬ様、態と軽薄な態度をとって場をやり過ごしているが、それも一体何時まで保てるものか怪しいものだ。
訝しげな顔をした父の前で一度だけ開き直って自分が如何に詰まらぬ人間なのかやや大袈裟に吹聴した試しがあるが、今となっては後悔している。父は地蔵の様に動かずただ龍一を見乍ら一言、急ぐなと云った。
その意味は何と無くだが判る。自分は結論を急いでいるのかもしれない。高校や大学へ進めば様々なことを学ぶだろう。これから自分には大いな可能性がある。それでも人が個々に持つ根本的な性質と云うのは、そう簡単に変えられるものだろうか。この先何か善い出会いに恵まれて将来へ幾筋か光が差したところで、結局自分の性格はそのままのような気がする。自分は一生自分だ。