中禅寺龍一くんの連載2

父の蔵書から何冊も失敬して手当たり次第本ばかり読んだことがあったが、ほんの数週間で馬鹿者と一喝され終わった。孟子は尽く書を信ずれば則ち書無きに如かず、とか云ったらしいが最もである。結局人の真似をしても仕様が無い。
兎に角家の中で目についた本をよく確認もせず手に取り、活字を追い頁を捲るだけの単純作業の中で龍一は意図せずある小説を読んだ。
大凡立派とは云えぬ装飾の真新しい本で、集録されている陰気臭い短編小説を全て読み終わってからやっと龍一は作者の名に目がいった。
関口巽――父の友人の一人、あの小柄な男である。父は友人ではなく知人と云い張るが、龍一から云わせればどちらでも同じである。
杳として暗そうな曲がった背筋。あの男が小説家であることは知っていたが作品名までは知らないし、況してや作風までは聞き及んでいない。
本当に陰気な小説だった。どれも始めは少々引き込まれるような魅力があるものの、後半になってガタガタと崩れる。文法だとか難しいことは解らないが、剰りにも歴然として崩壊している。締め切りに間に合わないから無理矢理終わらせたと云う印象が強い。
最初こそ作品ごとに感じる不思議でもあり、どこか現実的な世界に興味がわくのに結局全て中途半端に終わるものだから実に後味が悪い。
あの男らしい。真っ先にそう思った。
父はこの小説を読んでどう思ったのだろう。この世に詰まらない本などないとはよく云っているが、この本もまたそうなのだろうか。
龍一にはよく解らなかった。