死因

「死因は何がいいのかな」

里村はそう言った。
先日起きた惨殺事件の解剖をしたのだという。痴情の縺れから起きた小さな事件だと私は木場から聞いていた。

「死因は最初に首を絞めた時の窒息死ね。だけど死んでから首が取れる寸前まで包丁突き刺してみたり、心臓の辺りも滅多刺し。あと首絞める前に散々殴ったり蹴ったりしてる。犯行現場からは致死量の薬物――ああ何だったかな。確か麻薬の類いだったけど、そんなのも見つかってるらしいよ。まあ、それは使わなかったみたいだけどね」

なんと猟奇的な事件だろう。それでは男の容姿など跡形も無かったのではないか。
木場は下らないと云ったが、そんな簡単な一言で片付けられる話ではない。女の精神は至って普通だったと、それは新聞で読んだ。何が彼女をそこまでさせたのだろう。

「でも何が吃驚ってさ胃の中身だよ。彼が最後に食べたの何だと思う?」

目を爛爛と輝かせ私の方へ乗り出してきたので落ち着くよう促すと、悪戯小僧の様に鼻を掻いて背を正した。

「ふふ。御免、御免。この話は君みたいな人には酷かな。止めとこ――いやあ。それにしても、殺しても殺しても死なないから必死に殺し続けたみたいなやり方だよね。実際は最初に首絞めた時点で死んじゃってるのにさ。まあ、犯罪者の心理なんてのは僕が考える仕事じゃあないけど。結局どれが良かったのかなあ」

私は思う。
きっと彼女は彼の死を認められなかったのだろう。自分が殺したその事実はよく判っているのに、彼の死だけは認識出来なかった。
きっと相当な執着だったのだ。
愛していたなどそんな軽いまやかしは他人の幻想に過ぎない。依存や執着とは何よりも恐ろしい。

「アレは久しぶりに解剖のし甲斐がある死体だったなあ。次から次へと発見しちゃってね、宝箱みたいだったよ。うふふふ」

屈託のないその笑顔に呆れて溜め息が漏れた。この何時もと何ら変わらぬ一連の動作に私はどう仕様もなく日常を感じた。所詮他人の事件。私には関係無いから知ったことではない。
惨いものだ。

死因など何れでも同じだろう。