目玉

焼き魚の目玉は美味いと言う。
ならばどんな生物の目玉も美味いかもしれない。しかし私は魚の目玉自体食したことがないのでわからない。
「目玉は美味いんでしょうか」
「はあ?」
目の前の雇い主は相変わらず人を小馬鹿にするような、それでいて愉しそうに眉を潜めた。
「目玉ですよ。メ、ダ、マ!魚の目玉が美味いなら豚や牛だとか肉が美味いやつはみんな美味いのかも知れませんぜ」
「ああ!目玉ね、目玉目玉目玉!あはっ!お前はいつからそんな猟奇趣味になったんだ?嫌だなあ。解雇してしまおうかな」
「勘弁してくだせえ」
思うのだが人間は家畜の腸だとか様々な内蔵、舌や剰え性器まで食すのだから目玉なんて可愛いものではないだろうか。
きっと触感は魚卵のようだと思う。歯をたてたらぷちっと割れて音がする。
「目玉目玉目玉!―――ああ!和寅!僕はなんだか焼き魚が食べたくなってきたぞ」
「へえ」
色素の薄い主人の目を一瞥して考えたのだが矢張目玉は不味そうには見えない。
そこまで考えたところで嫌悪感が気管から急性に口内へせり上がり、まるで嘔吐してしまうみたいに背筋が震えた。
例え想像でもこんな怪しげなことを考えるのは私には似合わない。脳が、体全体が拒否したのだ。
「矢っ張目玉はやめましょう」
「ふうん」
端から興味が無かったかのように振る舞って玩具に厭きた子供のふりをされた。
「焼き魚って何の魚がいいんですかい」
「さあ。美味いやつ」
閃光のように光ったこの人の目はやっぱり食すには勿体無い。