桜の木の下を掘れと言う。何かが埋まってるから。
「そんな小説あったよな」
「ああ、爆弾のやつですか」
何本もの立派な桜の木が鬱蒼と並ぶ鶴屋家のお花見地区。まったくあの人の何でもありな御家柄には驚きより感心させられる。
ちらりと後ろを窺うと、古泉は誰が見ても馬鹿にしたくなる様な阿呆面でへらへらと笑っていた。なんて厭わしいのだろう!殴ってやりたい。
それにしても爆弾とは墓穴だ。成績優秀で品行方正、特進クラスの古泉一樹?はっ!笑わせる。
こいつは頭が悪い。勉強は多少出来ても要領が悪いタイプだ。そもそも勉強だってこいつの実力なのか機関の力なのか怪しいもんだ。いや、確実に後者が有力だな。
「阿呆、爆弾は違うやつだ」
「そうでしたっけ」
間抜けな顔で掻いている頭はいつも留守番で俺を苛立たせる。
そう言えばあの小説の木の字は古泉の名前の字だ。
「僕の屍体をこの櫻の樹の下に埋めますか?」
振り返ると古泉は厭らしい笑みを浮かべながら桜の根を二、三度踏みつけて見せた。
地下でこいつの死体を包み込む様に伸びていく桜の根を想像して吐き気がした。根が何か得たいの知れない生き物のように這い蠢く様は自分が想像したことながら悪趣味過ぎる。
「桜が枯れる」
「酷いなぁ」
なんて間延びした口調だろう。
肩を揺らしながら、剰え俺をからかうように細められた目がこの上なく疎ましい。
「お前なんか何処にも埋めてやらん!」
先ほどまで桜の根を踏みつけていた無駄に長い脚を思い切り蹴ってやった。
痛いと派手に訴えるこの馬鹿の目頭にはうっすら涙が滲んでいるが、加減なしに強く蹴ったのだから当たり前だ。骨が砕けるよう念じるのは忘れたけれど。
「埋めないなら如何するんです」
――おい、そこか?
あぁ、もう本当に仕様のない奴。この先真面に生きていけるのか?あまりに素っ頓狂で些か心配になるわ。
「養ってくれるんですか?」
それは善いですねえ、考えておきましょうなどと独り言を繰り返しているが最早返事は不要だろう。
いつかこいつの空っぽで御飾りな頭を、檸檬より大層な爆弾で木端微塵に吹き飛ばしてやろう。
そう決心した。