古泉がでかい図体を丸めて床に屈んでいた。何をしてるかは知らないが、なんだか間抜けな後ろ姿だった。大きな何かが行く手を阻んでいるみたいで無意味に肚がたつ。
「邪魔、退けよ」
「駒を落としてしまいまして」
鬱陶しいくらいのジェスチャーにまた苛々した。
「ほんと、お前、邪魔」
「すみません」
「ヘラヘラすんな」
ああ。今、急に何か思いだした。何だっけ。長門が読んでた本にこんなのあったよな――
「なぁ、長門」
「え?」
古泉が振り返って如何したと訊いてくる。違う、お前じゃない。長門、ほら。あれ何だっけ。
古泉が不審者を見るような目で俺を見る。その顔を見ていた一瞬のうちに、隣りに長門が立っていた。片足で。
「うわ!」
古泉と仲良くユニゾンしてしまった。くそ忌々しい。
「あの、長門さん?」
長門が古泉の背中に上履きを履いたまま足を蹴りつけていた。首だけを此方に向けて焦っている古泉から長門の下着が見えているんじゃないかと思って、奴の首を捻って前を向かせた。
「え、あの」
「成る程な」
長門は黙ってその本を差し出してきた。また呼び出しの栞が挟まっているんじゃないかとちょっとだけ期待する。
「ありがとよ、長門」
「そう」
古泉の背中に不自然な足跡がついていて至極笑えた。