手紙

彼と私は親子ほど年が離れている。だから彼を呼ぶとき、私は親しみを込めてパパと呼んだ。
まるでどこかの詩人みたいねと言ったけれど、パパはまるで解っていない様だった。
パパは私のことをいつもキミと言った。だからいっそ、私の名前がキミヨとかキミコだったら好いのにと思う。そうしたら私はキミからキミちゃんになれる。
「ねえパパ。次はいつ帰るの」
「今しがた来たばかりだと言うのにもう次の話なのかい。キミは随分気が早いのだね」
「だって」
「そうだなあ――うん。あの子の誕生日くらいには一度寄れるかしら」
あの子がひとつ年をとるためにはあと6箇月も要する。よしパパが言った通りであっても、私は会えるのか判らない。
パパからは電話もない。
パパからは手紙だって届かない。
「パパ」
思い付いた不平不満を全て口にするにはまだ気持ちが足らなくて、でも汲んで欲しくて一先ず呼んだ。
「キミは本当に『パパ』が好きだね」
そんなことを言われると一寸だけ嬉しくて、もう一度呼んだ。
「パパ」
「うん――だけど、いくら私があの子の父親でも、そんな風に呼ぶのはもうおよし。いいかえ――小森さん、また交をよろしく頼むよ」
パパはそう言って微笑むと、弟に渡してくれないかと言って封筒を一つ私に差し出した。
この厚みと重みが酷く無情に思えた。
――無神経な人だ。
この封の中身が手紙だったら。宛名が私なら。
だけどパパはなにも知らない。

 *

パヽがかへつたら
パヽが涙で流れるほど泣くが好い
パパの膝で泣いてくれ、
そして笑つてくれ

まつてゐろ 好い子だ