胃袋

「私ね、胃下垂なの」
彼女がはにかみ乍ら笑って摩っている下腹部は、服の上からでも確かに肥えている様に膨らみを帯びていた。
ただ脂肪がついてでっぷりと太った腹が、胃下垂の所為だなんて彼女は要らない心配をしている。
「胃下垂って言うのはね、内臓を支えている脂肪や筋肉が減少することで胃を支えられなくなっておこるの。だから見た目は痩せてる人が多いのよ。それに胃下垂の症状は、腹部は窪んでいるのに下腹部だけが膨らむの。消化が悪くて食べた物が胃に溜まってしまうから小食になる筈だし、それだけ食欲があれば大丈夫よ。病院で検査して貰わなくたって、心配しなくてもただの肥満だわ」
「――有り難う」
「如何致しまして。ああ、ねえ胃袋って死体と生きている人間では形が違うんですって。死んだらどんな形になるのかしら!」
何故か俯いて何も言わない彼女の腹では、地響きの様な轟音で腹の虫が鳴いていた。