愛嬌

「また増えてますね」
声を掛けると興味なさ気な返事が返ってきた。
――尻尾以外は興味無しですか。
声に出して言ったつもりはないのだけど、彼女の大きく見開かれた右目が私をじっと見ていた。
無反応、無関心、無感情。
視線が痛い。
「動物と仲良くなれた勲章みたいなものでしょう。良かったですね」
態と皮肉のような言い方をしてやると先ほど迄の視線が外れ、私は少しだけ安堵した。
彼女に嫌われていると言われても驚かない。
「痛いですか」
「別に」
平素から私達は会話が続かない。途切れ途切れの単語を連ねただけの拙い発言だけが私達だけの閑散とした教室に響く。
「もう一つ増やしますか」
――何を。
感情の汲めない顔の口元だけが動くのを見ていた。
右内腿の傷。左頬の痣。右手の捻挫。一つ増えたところで気付かない。
「先生」
言葉の意味を理解した瞬間、強い目眩を感じ、私は床に膝をついて倒れてしまった。
「嘘だよ」
見上げた彼女の顔は、逆光で見えなかった。