待人

先生がもし教職に就いていなかったら僕は先生とどんな出会い方をしただろう。教員としてでさえ危うい先生が教員以外でまともに勤められる職があるとは思えない。だとしたらやっぱり先生が教師じゃなかったら僕達は出会えなかったのだろうか。

「先生は先生でよかったですね」

「何ですか急に。私を馬鹿にして楽しいですか」

「違いますよ。話は最後まで聞いてくだい。僕は、先生がこの高校の先生でよかったと言ってるんです。先生がもし、そうですね。例えばマルチ商法で変な商品を主婦層に無理矢理売るような悪徳業者とかだったら」

「例えるにしてももっとマトモな職業があるでしょう」

「ふふ。すみません。兎に角、先生が先生でなければ僕は先生と廻り会えなかったでしょうから」

「そんなことは誰にでも言えますよ」

「拗ねてるんですか?」

寄せられた眉の下で目が泳いでいる。

「久藤くん!やっぱり君は私を馬鹿にして――」

「だから、違いますよ」

僕が笑うと先生は黙る。きっとこの人は僕の顔が気に入ってるんだと思う。自惚れだろうか。

「でも先生が先生だったから僕は先生がいいのかもしれませんね」

「なんだかややこしいですね」

「ふふ。先生も僕が僕だからいいのでしょう?」

ちょっぴり冷静なふりをして目を反らされた。いつも大人の余裕を演じようとして全く出来ていないことにそろそろ気付いてもいい。

「もし君が生徒ではなく郵便局の配達員だったとしても、私はどこかで廻り会えると思いますよ」

「郵便?ふふ。面白い」

それでいて僕もこの人のペースに呑まれてしまう。やっぱり生きた年の分だけ一枚上手なのかもしれない。

「じゃあ僕は先生が僕を見つけてくれるまで――」

「いい子に待っていなさい」

笑った顔がこの上なく愛しくて、いつまでも待てる気がした。