浄化

血のように赤い爪が汚ならしくて吐き気を催した。経血を思わすその赤さが、熔けて私を侵蝕せんと企んでいるに違いない。

「フフ、可愛い。緊張しているの?」

これもまた赤い、厚く醜い唇が空気を震わす。その空気を私もまた吸っているのか。
肺が腐ってしまう!
今すぐこの部屋を出なければなるまい。立ち上がった拍子に剥き出しだった女の腿を踏んでしまい、女は悲鳴をあげたようだったが取り合わず部屋を去った。

そうだ。あの娘に逢いに行こう。あの醜女を葬らなければ。
肺病患者のような息遣いで無心に暗闇を走った。ゆっくり歩いていてはまたあの女が現れる。
早く。早くあの娘の元へ――

乱暴に開け放った扉の向こうで少女は長い髪の間から私を見た。暗闇に色が加わる。
たった数尺の距離を駆け足で、縋りついた。少女の長い髪が私にも掛かり私の髪と同化する。化粧臭くなった私の皮膚も包む。

「また変な女に捕まったんだ。断らなきゃ駄目って言ったのに」

彼女の言う通りである。
街を歩く度娼婦のような女達は私の腕を掴んで得体の知れない部屋へと連れ込む。抵抗出来ないのか、しないのか私はいつも部屋に入ってしまってから自分の失態に気付いた。
それでは遅い。
一度過ちを犯したあの時も私はここへ逃げてきた。

「もう今度やったら入れてあげないんだから」

私より一回りも二回りも小さな少女の躯が私を包み込む。胎児の様に丸まった私は微睡み、寝てしまう。
弁解も謝罪も口に出来ない。今はもう寝てしまいたい。

「おやすみなさい、先生」

少女の体温に被われ私は意識をも手離した。