団欒

まったくどうなっているんだ此処は。
あの陰鬱で卑屈な弟が子供の世話など出来るものかと決め付けていた。ろくに片付けもされない部屋、しかも若い娘が二人住み着いている始末。
久しぶりに様子を見に来ればこの様。どこから注意するべきか躊躇してしまった。
「こんばんは」
望に合わせているのか古風な出で立ちをしている方の娘が言う。
「君は」
「常月まといといいます。先生なら御手洗いですよ、お兄様」
先生と言うからには生徒なのだろうその娘は丁寧にお辞儀をすると、台所に立つもう一人の娘へ駆け寄った。
「ね、そっくり」
こちらを一瞥したその娘は小森霧と名乗った。
「全然似てない」
「姉ちゃんたち喧嘩すんなよな」
交が挨拶もなしに私が手土産に買ってきた饅頭の包みを乱雑に開け出すので、あまりに不躾だと思い注意しようとしたところで望が入ってきた。
「ああ、兄さん。来てたんですか」
頭を掻きながらのそのそと襖を跨ぐ姿が実にだらしない。
「望、これはどういうことだ」
「お兄さん、邪魔」
先ほど小森と名乗った娘が私の後ろで鍋を持って立っていた。思わず横に退けて道を開けると饅頭を口にいれたまま交が鍋だと大声を上げた。
「お兄さんの分、ないから」
突っ立ったままの私に憐れむような物言いで望が私の分を分けますよと言ってくるので一瞬頭に血が登った。
「望、私は」
「ていうか何しに来たの、おじさん」
柄にもなく声を張り上げた私を交が疑い深い目で見ているし、先ほどから着物の娘の異様なまでの視線を感じる。
「お兄様も素敵」
微かに聞こえた着物の娘の声。何鍋だと喧しく聞く交。テレビのリモコンはどこだと煩い望。
この場にあと一分でも長くいたら私は精神を病むだろう。
「帰ったほうがいいよ」
長い黒髪の間から覗いた目がこの家で唯一現実だった。