蛆虫

「望、首吊り自殺した遺体がどんな状態で発見されるか知ってるかい?」
「ええ、まぁ」
さも愉しそうに話す兄は私に目線をやりながら右の頬に肘をついた。
「括約筋の弛緩により、吊り下がった重力で糞尿が流出する可能性がある。眼球が飛び出し、性器が勃起した状態で発見される――可笑しいだろう?」
何がだ。
嘲笑ともとれるいやらしい笑みを浮かべながら兄の左手が此方に伸びてきた。
「仮にもお前は私と同じ顔をしているんだよ。考えてもみなさい、お前は私と同じその顔でそんな醜態を晒すのかい?」
私の首を掴んだまま、まだ愉しそうに笑う兄は左手に力を入れる訳でもなく目を細め、人差し指でリズムをとりだした。
「私がどんな死に方をしようと兄さんに関係はありませんし、死んだ後に自分がどんな状態かなんて如何でも善いことです」
それに首吊り以上に確実で手軽な方法はない。服薬や入水で心中するというのも美しくて憧れるが――
「お前が死んだら私は悲しいよ」
首に伸ばされたままだった兄の左手が爪をたてながら離れていく。
「痛いです」
「これくらいの痛みで音を上げていたら自殺なんか出来ないじゃないか」
蚯蚓腫れになったであろう私の首を満足気に眺めながら歌でも歌うようにううんと唸った。
「お前が死ぬまで首吊りの紐は私が預かってやろうか」
また私に伸ばしてきた左手を思いきり払い除けると兄は唸るのを止めた。
「あなたこそ首を吊って死ねばいい」
普段静かな兄が声をあげて下品に笑った。