柱はキスをするもの

「かなたん」


覗き込んでくる紀平さん。
いきなり拉致られて縛られて、流石に心が広いと有名な俺としても笑顔で許せることのできない仕打ちに怒っていた。
そう、怒っていたのだ、俺は。


「……」

「もしかして怒ってる?」

「あ、当たり前じゃないですか!」

「てめえ口の聞き方気をつけろ!」

「えっ?!…あ、アイサー!」

「かなたんそういう事じゃないと思うよ」


笑う紀平さん。
不意に伸びてきた指先が顎下に触れ、そっと上を向かされる。
至近距離、真っ直ぐに紀平さんに覗き込まれ、息が止まりそうになった。


「…まあこういうわけだからさ、俺達も今回の勝負、負けるわけにはいかないんだよね。………面白そうだし」


おい今さらっと本音が聞こえたんだけど。
どっちにしろ、紀平さんにとっては暇潰しなのだろう。
分かっていたことだけど、俺はそういうわけにはいかないのだ。今更だと言われようが俺の貞操が掛かっている。


「……」

「かなたん?」

「……っ」


まるで猫か何か相手にするみたいに顎の下をくすぐられ、全身が凍り付く。
その手を振り払うことも出来ない今、俺は慌てて紀平さんから顔を逸らした。

その時だった。
一瞬、空気が凍り付いたような気がした。


「…………フォーリバー」


紀平さんの手が離れたと思った矢先のことだった。
短いアイコンタクト、それを受け取った四川は笑う。


「本当、人使い荒すぎるだろ…」


紀平さんと入れ替わるように目の前に再びやってきた露出狂もといフォーリバーに止めどなく嫌な予感を覚える。
そして、それは見事的中するわけで。


「し、せん…ッ」


柱に括りつけられた体に逃げ場はなく、あっという間に追い込まれる。
縄で柱に縛り付けられた腕、その手の平を重ねるように掴また。
ぎょっと顔を上げた矢先、問答無用で唇を塞がれる。


「ん、んんッ、ぅーッ!」


強引に捩じ込まれる舌に唇ごと割り開かれ、咥内を侵される。
目を開けば極彩色の悪趣味マスク。
相手は四川だと分かっているのに、違う人にキスされてるみたいで余計緊張して、体が動かない。


「っ、ぅ、ん、ッんん゙ッ」


絡み取られた舌を無理矢理引っ張り出され、根本から舌先全体を吸い上げられれば腰が抜けそうになる。
酸素ごと奪うような乱暴なキスに頭が真っ白になって、やめろという事も出来ない今重ねてくるやつの手をぎゅっと握り返して意思表示を試みるがどういうことだろうか。噛み付くようなキスに荒々しい舌への愛撫に、明らかに激しさを増しているような気がしてならないのだけれど。

mokuji
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