クラッシャー降臨

「笹山!」


休憩室。
ようやく足を止める笹山に呼びかければ、笹山はゆっくりとこちらを振り向いた。


「原田さん…どうしたんですか?」


そう笑い返してくれる笹山はいつも通りで。
でも、さっき、あんなに動揺していたのに。


「いや、あの…」


もしかして俺の考え過ぎだったのだろうか。
ここ最近笹山を避けてきていただけに、過敏になっていただけというのか。
口ごもっていると、「あの」と笹山の方から口を開く。


「店長とのこと…おめでとうございます。すみません、俺、全然知らなくて…」

「お、俺も、言ってなかったから…ごめん」


どこかの誰かにも見習わせたくなるその反応だが、なんでだろうか。
これでいいはずなのに、笹山のその言葉に胸の奥のもやもやは大きくなるばかりで。


「それなのに、馴れ馴れしくしてしまってすみません。…これからは気を付けますので、その…」


珍しく、言葉に詰まる笹山。
浮かべていたその笑みが引き攣るのを見逃さなかった。


「笹山…っ」

「ごめんなさい、俺、ちょっとビックリしてて…どうすればいいのかわからなくて……」


俺は、自分を守ってでもこんな笹山の顔を見たかったのか。
違うだろ。
俺が無事でも、誰かを傷付けたなんの意味もない。


「ちょっと、頭冷ましてきます」


言うなり、逃げるように踵を返す笹山。
このまま笹山を放っておくわけにはいかない。
そう思ったらと咄嗟にその腕を掴んでいた。


「原田さ…」

「違う、こんなつもりじゃなかったんだ。お前にそんな顔、させるつもりじゃ…」

「原田さん…?」

「本当は、俺…」 


全部嘘だって、笹山に近付くなって脅されていたんだって、全部言おう。
笹山が困るかもしれない。
けれどこれ以上隠し事はしたくない。

そう、決意して「俺」と笹山を見上げた。

それと、奴がやってきたのはほぼ同時だった。


「おい!貴様ら店内ガラ空きではないか!!」


なんというタイミングだろうか。
休憩室にやってきた店長に雰囲気決意諸々ぶっ壊される。



mokuji
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