物的証拠と加害者証言

「…何って、着替えてるんですけど?」


いや着替えてはないしこれ違う。着替え違う。
そして真顔ですっとぼけやがる司に騙される紀平さんでもない。


「って、ぅ、おうっ!」


矢先、いきなり伸びてきた紀平さんの手に思いっきり服を捲り上げられる。
「え、ちょ、なに」と慌てて下げようとするが、敵わない。それどころか脇腹を突かれれば力抜けそうになる始末で。


「気になってたんだけどさ、もしかして、これやったの君?」

「俺ですけど」

「君、言ってなかったっけ。かなたんは店長と付き合ってんだよ?よくないよねえ、こういうの」


これと言われても見えないが如何せん心当たりがあり過ぎて困る。
お前が言うなと突っ込みそうになったが、今はその言葉が有難い。
そうだ!もっと言ってやれ!こいつを止めてくれ!
そんな念を送っていると。


「問題ないです」


即答だった。


「どうしてそう思うわけ?」

「原田さんは俺とも付き合うって言ったんで」


素知らぬ顔して続ける司にキスをされる。
瞬間、「え?」と三人の声が重なる。
……ん?三人?


「おっ、お前……確かに店長はやめろっつったけどさぁ…っ!」


いつから聞いていたのか、更衣室の前、ドン引く四川に俺はハッとする。


「いや、ちが、誤解。誤解だから!俺、付き合うなんて…」

「言ったじゃん」

「言ってねえよ!」


何かが可笑しいと思えばそんな厄介なことになってたなんて思ってもなくて。
しかし今は違う、ある程度冷静になった今ここで司とは決着を付けなければならない。そう構えた矢先のことだった。
どこからともなくボイスレコーダーを取り出す司。
そして、


『原田さん、付き合お』

『ぁ、んっ、わかった…!わかったからぁ…!』


「って何録ってんのお前?!」


しかもなにこれ、いつの間に、つーかあの時のかよ!そりゃ覚えてるわけねえだろ!


「…かなたん……」

「紀平さん、あの、違います、これはですね、俺、いやほんと心当たりがなくて…」

「俺とは付き合わないつったくせに司とは付き合うっておかしくね?」


そこかよ!しかもめっちゃ怒ってるし!


「原田さん、俺のこと愛してるって言ってあんなに切なそうに泣いてたのに…演技だったわけ?」

「思い出補正やめろ!」

「時川お前…他にも録ってんのか?」

「後々有利になるから…オススメ」

「四川に悪知恵つけんのもやめろ!」


どうしてこう物事が順調に拗れていくのか。
というかまさかこいつあの行為全部ボイスレコーダーで録ってんじゃないのだろうかと危惧してたら日常的なものかよふざけんなよ!あと紀平さんも「もう一回聞かせて」とか言ってんじゃねえよ!司もリクエストにお応えしてんじゃねええ!



mokuji
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