水も滴る 「ぁ、有り得ねぇ……っ」 「……原田さん?」 「なんで、お前、俺の…中に…こんな…、こんな……っ!」 喋る度にその震動で波立てる腹の中のそれは早速流れ出してきてなんだかもう泣きたい。 しかし、無言でそんな俺を見ていた司に全く悪びれた様子はない。 それどころか、 「原田さん見てたらシたくなっちゃったから」 「な…ッ」 「嫌だった?」 嫌に決まってんだろ、と口を開こうとした時司に顔を覗き込まれる。 「……嫌だった?」 なんでこいつが若干キレ気味なんだよ。キレたいのは俺の方なのに。 「原田さん」 と、名前を呼ばれ促される。 拒否すれば何されるかわかったものではない、けれど受け入れても受け入れたとして俺の中のあらゆるものが木っ端微塵になることには違いない。 返答に迷った、その矢先のことだ。 いきなり、便所内の照明が消えた。 「っ!」 停電か。 っていうか、これはいいタイミングではないのだろうか。 僅かに出来た司の隙を狙って逃げようとしたとき、司に肩を掴まれる。 「原田さん、今動いたら危ないだろ」 お前の方がアブねーよ!という言葉は寸でのところで飲み込んだ。 けれど、 「司、離…」 離せ、と声を上げようとした瞬間だった。 頭上から大量の水が落ちてくる。 そう落ちてきたのだ、降り注いだのではなく。 「っわ、なに……ぅぷ!」 まるでコント並みの大量の水はすぐに止んだが、やばいめっちゃ掛かった。 水分を含んだ衣類にバランスを崩しかけた時、すぐ背後でゴォンッと軽快な音が聞こえてくる。 そして、次の瞬間先程まで消えていた電気はなんなく点いた。 「……な、なんだったんだ……って、うわっ!司っ!」 「…………………………………………」 金のタライを頭から被った司は無言で佇んでる。 あ、なるほど、今の何かがぶつかった音、これか。と納得すると同時に、同様無言でタライを外した司は俺以上にびしょ濡れで。 「…つ、司……?」 「原田さん、ごめん。……ちょっと待ってて、すぐ戻ってくるから」 あれ、いまちらっと青筋が浮かんでいたような気がしたが恐ろしいので俺は司を引き止めずただ見送ることにした。 それにしても、なんだったのだろうか。 驚いたが、あらゆる汚れも流し落とすことができてわりかし助かった。 けれど……。 「って、また掃除やり直しじゃねえかよ…!」 一先ず俺は服を着替えることにする。このままでは拭いたところからまた濡らしかねない。 は?司の命令?破るのも恐ろしいが待ってたら待ってたでろくなことにならないだろうから聞かなかったことにする。 |