交渉成立 正気か、こいつ。 そう突っ込みかけた矢先、あてがわれるローション濡れのそれに血の気が引いた。 「ま、待った、司っ、司っ」 「なに?」 「なにって、ぁっ、うそ、待てって、司ぁっ!」 なんということだろうか。人に聞き返しておきながら構わず性器を捩じ込んできやがる司に息が止まりそうになった。というか間違いなく止まった。 「ん…っ、すごい、暖かい」 「っは、やっ、あっ、あぁ」 「…やっぱり、俺達相性いいな…っ」 嫌になるくらいスムーズに行われる挿入。 深く腰を打ち付けられる度に腹の中を抉られ、声が抑えきれなくて。 「っん、っあ、ぁっ」 「原田さん」と呼ばれる度に脊髄反射で下腹部に力が入ってしまう。 射精後の疲労感やら店長とのあれこれの後ということもあってなんかもう気持ちいいのと腰痛いのと早く寝たいのとかごっちゃになって、鏡の中の自分が何されているのかすらわからなくなるほど俺のあらゆるものがこの時ピークに達していた。 だからだろう。 「…っ付き合お、原田さん」 「っ、ふ、へ」 「そしたら好きな時いつでも挿れていいから」 「俺の、これ」と、いやらしくケツを撫でてくる手。と、同時にぐりぐりと腰を押し付けられる。 圧迫された腹の中、勃起した司の性器に内壁全体を撫で回されればぞくぞくぞくと脳汁溢れそうになった。あ、冗談抜きでやばい。なんか、頭痺れすぎて逆に目が覚めてきた。やばい。 「なに、言って、ぇ……っ!」 「ねえ…原田さん、付き合おうよ…っ」 「っ、あ、なに、っえ、うそっ」 「嘘じゃない…本気だよ、俺」 ずるりと引き抜かれたかと思えば一気に挿入され、それを繰り返される度に中身がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられて、何も考えられなくなる。 ただ腹の中で膨張する司のものの動きは嫌になるくらい生々しいのだ。 「原田さん…っ」 閉じる暇もなく開きっぱなしになった口はいつの間にかに馬鹿みたいにヨダレが溢れていて、近付いてきた司にそれを舐め取られたと思えばそのまま唇を触れ合わされる。 なにかを強請るようなその仕草に、強請られるこちら側としてはなんだかもう恥ずかしさとかそれどころではなく、キスとは裏腹に荒々しくなるピストンに呼吸は浅くなっていく。 「っは、ぁっ、んんぅっ…!」 「原田さん、付き合お…っ」 呪文かなにかのように耳元で囁かれる。 司が何を言っているのか最早俺の脳味噌は考えることが出来なくて、それでも司の吐息だけはしっかりと鼓膜に染み込んでいて。 休む暇もなく襲いかかってくる強い快感は苦痛にすら等しい。 滲み出る汗、次第に五感が鋭利になっていくのがわかり、このままでは身体が保たない。そう判断した俺は息を飲み込むように口を開いた。 「っ、わかった!」 「…原田さん」 「わかったから、お願い、もっと…もっとゆっくりして…っ!」 とにかく、司を落ち着かせるため、俺はそう口にした。何も考えずに。何も理解もしないまま。 そう、今思えばこの時点で既に色々手遅れだったのかもしれない。 俺も、司も。 「………っ」 わずかな間。 瞬間、小さく司が息を飲むのが聞こえた。 それとほぼ同時だ。 「ふっ、ぇ、あっ、うそッ、司っ!」 人の話を聞いていたのだろうか。腰を掴まれたかと思えば先程よりも性急に腰を動かしてくる司に思わず舌を噛みそうになる。 「あっ、あっ、やっ、ばかっ、やめ、やめろってばあっ!」 話が違う。ちゃんとお願いしたはずなのになんでさっきよりも悪化してるんだ。 文句言ってやろうと思うのに、開いた口からは出た声は途切れ、その代わりに溜まった唾液が溢れて顎へ落ちる。 少しでも気を抜いたら抱き潰されそうで、咄嗟に鏡に手を付く。 瞬間、アホ面晒す自分の背後、抱き竦めるように背中に伸し掛かってくる司と目が合った。 「…っ、ごめん、俺、馬鹿だから手加減の仕方わからない……」 だから、と小さく司の唇が動いた瞬間、向けられたその熱の籠もった目に、息が詰まりそうになった。 |