※個人差があります

ちゅ、ちゅ、と音を立て何度も唇を押し付けられる。
その度に触れた箇所が痺れるように熱くなり、こそばゆい。


「……原田さん…っ」

「っ、つ、かさ、だめ…っ」

「そんなに俺の手、気持ち良かった?」

「ふ、ぁ」


唇同士が触れ合うくらいの至近距離。
囁かれるその声に、腰から力が抜け落ちそうになる。


「原田さん、俺と店長どっちが好き?」


伸びてきた手に耳を撫でられる。
その指の感触にビックリして「え」と顔を上げた時、軽く引っ張られた耳朶に舌を這わされる。


「っぁ、やっ、司」

「原田さん」

「う、うぅぅ…っ」


なぜこうもこいつは白黒付けたがるのだろうか。
鼓膜に直接問い掛けられ、脳味噌へと直接流れ込んでくるその吐息に頭がどうにかなりそうだった。
そんなの、答えられるはずがない。普通に。


「原田さん」

「比べ、られるわけ…ないだろ…っ」


そもそも男相手に好きだとかそういうあれはあれなわけであって、俺からしてみたら恋愛対象外なのだ。…そうだと思う。
首を横に振れば、どういうことなのだろうか。鏡の中の司の顔が僅かに赤くなっている。


「……嬉しい」


……嬉しい?


「えっ、あっ、ちょ!待って!司ッ!…んんっ」


ひょっとしてこいつな何か勘違いしているのではないのだろうか。慌てて確認しようとするが、問答無用で唇を塞がれ言葉は掻き消される。
先程の優しく、触れ合うだけのキスとは違う。
酸素ごと奪うよう、唇を貪られる。


「ふっ、んぅう…ッ」


その間にも下半身に這わされた司の手にベルトを緩められ、ズボンも降ろさずに緩んだウエストから下着の中に手を突っ込まれた。
そして1回射精してしまったそこは案の定大惨事になっているわけだ。


「っんん」

「……すげえ濡れてる」


やめろその言い方…!!

精子やら先走りやらでぐちょぐちょに汚れてしまったそんな中、躊躇いもなくまさぐってくる司の指に、凝りもせず勃起した性器を掴み出される。


「っつか、さ…ぁ…ッ!」

「苦しいだろ。…取り敢えず1回出すから」


取り敢えず?!取り敢えずってなんだ?!
さも二回目があるかのような司の言葉に戸惑うのも束の間、絡み付いてくる細くしっかりとした指はゆっくりと俺のを扱き出す。


「っ、待っ、ぁ、あっ、んんっ!」


輪っかを作った司の手に、根本から先端までを締め付けられる度に息が詰まりそうになった。
鏡に映った自分のものが司の手の中でさらに膨張してるのが視界に入り込み、羞恥で体が熱くなる。


「…すごい、どんどん溢れてくる」

「言、うな…ぁ…っあぁッ!」


反り返った裏筋、浮かぶ血管を指で擽られた瞬間脳天から爪先へと電流が流れる。
堪らず背後の司に凭れ掛かった時、腰に回されたもう片方の手に下半身を固定され。

矢先、


「っ、ぁ、だめ、ゆっくり、ゆっくりぃ…っ!」


溢れ出す先走りを全体へと塗り込むようよう、強弱付けて扱き下ろすその手の動きは次第に激しさを増す。
自分の下半身から発せられる濡れた音は便所内にやけに大きく響き、耳を塞ぎたくなるが司の腕にしがみつくのがやっとだった。


「ふ、あ、ぁああ…っ!」


止めどなく競り上げてくる快感に耐えられるような図太さは持ち合わせていない。
絞り出すよう、全体を締め付けられたその瞬間、俺は呆気なく司の手の中に射精してしまう。


「…っん、んんん…っ!」


溜まりに溜まっていたものを吐き出した瞬間、頭が真っ白になった。
気持ちいい、とかそういうのよりもようやく息苦しさから解放されたというのが大きかった。
だからだろう、自分がどこに出したのかそれに気付くのに少々時間が掛かってしまったのだ。

汚れないよう、掌で精液を受け止めてくれたようだ。
どろりと司の手に溜まったものを見て、ようやく俺は自分の仕出かしたことに気付く。


「……」

「っ、あ、わり………」


というかなぜ俺が謝らなければならないのかわからないが、脊髄反射で謝りかけた矢先だ。
目の前で掌に舌を這わせ、湯気立てるそれを舐め取る司に思わず「は?!」と声を上げてしまう。


「っ、馬鹿、なにし…」

「美味しかった」

「んなわけ…んんんっ!」


ねえだろ、と言いかけた矢先、顎を掴まれキスされる。
今度は丁度開いていた口に舌を捩じ込まれ、瞬間、咥内いっぱいに広がる独特の味。
司の舌から流し込まれる形容し難いその味に全身から血の気が引く。


「ぅううっ!」


ばしばしと司を叩けば、やつはすぐに唇を離した。


「…美味しい?」

「ま、ずい…」

「そ?甘くて美味しいよ。…ハチミツみたいで」


美味しい、と濡れた自分の唇に舌を這わせる司にぞっとする。
少なくとも俺には青臭さと塩の味しか感じなかったのだが味覚の個人差とは恐ろしいものだと思った。まる。


mokuji
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