錯覚症状

「っは、ぁ…ッあぁ……ッ!」


濡れた、絡みつくような感触とともに体の中、入り込んでくる異物感に身の毛がよだつ。
それでも、不快感以上に内部を抉じ開けるように挿入される性器の熱に全身が蕩けそうになって。

なんでも言う事を聞く。
そう言う店長にせめて豆電球だけでもとせがんだ結果、ある程度ものを捉えることのできるくらいの明るさを取り戻した視界だが、俺にとって難易度が高いことには変わりなくて。


「おい、力抜け」

「そ、んなこと…言われても…ッ」


目の前、一人用のソファーに腰を店長の膝の上に跨った俺は店長にしがみついたまま動けなくて。
下腹部、宛がわれた性器の尖端が入り込んでくるのを感じてしまえばそれ以上腰を下ろすことが出来なくて。
中途半端に腰を浮かせたまま硬直する俺を、店長は笑いながらその腰を撫でてきた。


「別に、怖いならゆっくりとでもいいぞ」

「と…っ途中でいきなり腰掴んで一気に、とか、しませんか……?」

「それもそれで悪くはないが、俺はお前が自分で動くのを見てみたい」


言いながら、首筋や鎖骨、胸に唇を寄せる店長。
それもそれでなかなかの問題発言だが、そう言ってもらえると酷く安心して体の力が抜けそうになる。


「というかちょっと待て、なんだその経験談のような具体例は。誰だ、そんな真似をし輩は」

「え、あ、司が…」

「あいつか…ッ!」


つい答えてしまったが、ここは黙って墓場まで持っていくべきだったかもしれない。
唸る店長に、もしかして怒られるのだろうかと少し不安になった時、腰に回された手に抱き締められる、
瞬間、上半身同士が密着し、流れ込んでくる店長の体温に驚いた。


「…っとにかく、これからは仮にとは言え俺の恋人になるんだからな。……あまり、他のやつらと仲良くするなよ」


別に仲良くしているつもりはないが、取り敢えず頷いておく。
そういうことなら寧ろ店長の方が注意すべきではないかと思ったが、言い返そうとした矢先、臀部へと伸びてきた手に徐ろに尻たぶを左右に割られ、出かけた文句を飲み込んだ。


「ん、っ、ぅ…」


ゆっくりと、腰を落とされる。
絡みつくようなその音に、深く、内壁を摩擦するようにして入り込んでくるその熱に、背筋がピンと伸びる。


「…息を吐け、窒息するぞ」


耳元、囁きかけられるその声にぞわりと甘いものが駆け抜けいく。
言われた通り、声を殺そうとしていた口を開き深く呼吸を繰り返せば、それに合わせるように店長は俺の腰をゆっくり下げてきて。


「ふっ、ぅ、あッ、あぁ…」


全く息苦しさがないというわけではない。それでも、いつも以上に優しい挿入に体の負担が少ないのも事実で。
心の奥底、いつも怯えていた挿入がここまで今はただ心地よくて。
流れ込んでくる店長の熱に一抹の安心感すら感じ始めている自分に、自分でも驚いた。

しかし、それ以上に。


「…よく頑張ったな、上出来だ」


薄く微笑む店長はそう言って、目の縁にキスをしてくれた。
まるで俺の知っている店長と同じ顔をした他人のような気がしてならないくらいのその豹変ぷりに、本当に自分が店長と付き合っているような、愛されているようなそんな錯覚に陥りそうになるのだから恐ろしい。

mokuji
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