悪質な誘導 「はっ、ぁ、あぁ…あ…ッ!」 何も考えられなくなって、手探りで店長に縋り付く。 体の中をぐるぐる巡っていた血液が下腹部に集中して、バクバクと馬鹿みたいに煩い鼓動が警報みたいに響き渡る。 「や、だ、てんちょ…ッ」 「名前を呼べと言ったはずだろう」 「んんぅッ!」 瞬間、唇で挟めるように尖ったそこを柔らかく噛まれ、それだけでも頭がどうにかなりそうだというのに舌先で舐られればもどかしい快感に脳髄まで痺れそうになって。 「り、ひと、さん……っ」 「せっかくのごっこ遊びだ。ルールを決めるか、佳那汰」 じんじんと熱に侵された思考の中、店長の低い声が頭の中に響く。 あまり日常生活において聞き慣れないその単語に疑問符を浮かべたとき、円を描くようにもう片方の乳首を指で擽られ驚きのあまりなんか変な声が出そうになったが間一髪我慢した。よくやった俺。偉いぞ俺。 「その一、先ほども言った通り二人きりのときは名前を呼ぶこと」 口を開けたらまた変な声出そうなので、代わりにこくこくと頷き返す。 「その二は俺の言う事を聞くことだ」 なんとなくうっすらそんな気はしていたがまさかここまで俺の悪い予想に応えてくれる人間がいただろうか。 恐らく暗闇の中の店長の表情はさぞかし輝いていることだろう。 突っ込む気にすらなれない俺に、店長は「ああでも」と思い出したように付け足す。 「俺もお前に協力してやるから結果的にはプラマイ0だな」 「どうだ?嬉しいだろう?好きなこと頼んでもいいんだぞ?」そう続ける店長は恐らく俺の方がかなりマイナスになるということを気付いているのか、それとも本気で気付いていないのか。 どちらにせよ、こんな状況でそんなルールを設けてくる店長が相変わらず食えないやつだといことは間違いないだろう。 「ほら、さっさと言え。俺に何をして欲しい?」 「あるんだろう、頼みたいことが」言いながら、胸板、浮かぶ筋を指でなぞられ全身が熱くなる。 徐々に降りるその指に先程よりも明らかに騒がしくなる鼓動に、息が浅くなって。 「……っ」 こんな質の悪い誘導、誰が乗るものか。 そう、普段の俺なら突っ撥ねるだろう。 なのに、相手の顔が見えないからか。どれだけ恥体晒そうが今なら許されそうな気がしてしまうのは相手が店長だからか、それとも、狭まった視野のせいか。 固唾を飲み込んだ俺は、ゆっくりと口を開いた。 |