赤面克服法


「まあいい、せっかくここまで来たんだ。何か飲むか?」

「いや、俺は別に、その」

「遠慮するな。コーヒーでいいか?」

「いや、なら、お茶でいいです。俺、苦いの飲めないんで」

「そうなのか?…わかった、ならそこで待ってろ」


なんて、言われるがままパイプ椅子に腰を掛ける俺。
よく考えれば、ここは俺が面接を受けた場所で。
そして、初めて会った店長といろいろあったんだっけな。
思い出すだけでムカつくけど、それでも、今となっては良い思い出になってることも確かで。

そして、あの頃の俺は思いもしなかっただろう。
まさか店長と、フリとはいえ付き合うことになるなんて。


「ほら」


と、目の前に置かれるグラス。
「おかわりはまだあるぞ」とこちらを覗き込んでは笑う店長に、またさっきのこそばゆさが全身を駆け巡る。


「あ、あの、店長……」

「ん?どうした?茶菓子はないぞ」

「そうじゃないんすけど、あの、それ、やめてもらえませんか」

「は?」

「いや、あの、その……俺の目を見て笑うの……」


言いながら、恥ずかしさのあまり語気が弱くなっていく。
ますます理解できないといった様子で首を傾げる店長。


「普通じゃないか」

「いや、だって、なんかおかしいんです。なんか、すごい緊張しちゃって」

「なんだ、お前、俺に惚れたのか?」


いつもの意地の悪い笑みを浮かべた店長の言葉に考え込む。
ああ、なるほど、それだったらさっきからの妙なそわそわした感じも納得…………。


「はぁっ?!」

「うお、びっくりした」

「や、だって、何言ってんすか!そんなわけ…………」

「だって緊張してるんだろ?」

「そりゃ、その、でも」

「俺と付き合うのにそれくらいで緊張してたら不自然だぞ」


確かに店長の指摘は最もだった。
だけど、そう言われてもこういうのは初めてだからどうしようもない。
「うう」っと項垂れる俺に、店長も考え込む。

そして。


「……そうだな、俺にいい案がある」


そう静かに口角を持ち上げる店長の笑顔は非常に凶悪だった。

mokuji
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