流され注意報(手動) 「待って下さ、ぁ…やっぱり、こんなこと…!」 なんとか店長を離そうと奮闘してみる。 しかしそんな俺に構わず、伝う唇は徐々に硬化してくる。 耳元から首筋へと舌を這わされ、熱い舌のその濡れた感触に触れた箇所が痺れるように疼き始めて。 「ちょ、ぁ…ッ」 そんなこんなで舌に気を取られている内に、伸びてきた手に胸元をまさぐられる。 それだけでもただでさえ混乱している俺を更にこんがらがらせるというのに、店長の指はあろうことか衣類越しに乳首を撫でて来て。 今まで散々噛まれたり抓られたり潰されたり吸われたりと嬲られてきたそこは少しの刺激でも結構あれなあれなわけで。 びっくりして、慌てて身動いだ俺は肩口に顔を埋めてくる店長の頭をばしばし叩く。やっぱり俺には恋人はまだ早い。 「や、ぁ、ッだめ、やっぱり無理です、こんなこと…っ!」 二人きりの今でも顔から火が出てのた打ち回りたくなるというのに、人前で?いや、普通に無理だ。俺は清いお付き合いで十分だ。 そう訴え掛けるが。 「問題ない、直に慣れる」 ばっさりと一蹴された。 出来ることなら慣れたくねえという俺の意思は例の如くガン無視である。 だけど、誰かと仲良くなれないなら笹山と普通に話せなくなるわけで。 それは嫌だ。だけど、だからといって…。 なんて一人悩んでる矢先、シャツ越しに浮かび上がった突起を指で押し潰され、悩み諸共頭の中が真っ白になる。 「ッ、ぅ、あ…っ」 両胸の乳首を指先でやわやわ刺激されれば、胸の奥、体の芯がぼうっと熱くなってきて。 よくないと分かってても、その心地よい刺激に全身の力が抜け落ちそうになる。 「も、ほんと、てん…ちょ…う…!」 店長の肩を掴む手に力が入らず、それどころか腰を抜かしそうになるのを堪えるため店長にしがみつくような形はなってしまう。 それでも店長は楽しそうに目を細めるだけで。 「そんなに好きなのか?」 「胸を弄られるのが」と耳元で笑われ、多分、5センチくらいは火が吹いたんじゃないだろうか。 意地の悪いその言葉に、吹き掛かる吐息に、もどかしいその指の動きに、どれ程取り繕ったところで全てを見透かされた上で誂われている気がして。 「っは、ぁ……う……」 直接触ってなんて口が避けても言いたくない。 だけど、店長なら多分俺の言葉も聞いてくれるような気がする。 だけど、だけど、なんて考えた結果、今の俺には店長を離そうとしていた手を緩めることが精一杯だった。 おずおずと抵抗を止める俺に、何か悟ったのだろう。 微かに店長が意外そうな顔をして、そして満足そうに笑った。 「…可愛いやつだな」 その声に、言葉に、脳髄の奥、何か色々詰まっているであろうそこら辺がどろっと蕩けたような気がして。 火照ったみたいに熱くなる全身。 首筋に触れる店長の唇が冷たくて、気持ちよくて。 「てんちょ……」 つい、その背中に手を回しそうになった、その瞬間だった。 びびびびびび!と鋭いサイレン音がけたたましく通路に響き渡った。 その音源は俺のエプロンのポケットからで。 ああ、そうだった。兄からの着信を聞き逃さないため、とにかく喧しいものに兄だけ設定していたのだった。 すっかり忘れていた俺は思い出すと同時にあまりにも測ったような兄からの着信に血の気が引いていく。 |