未知なる恋人世界 「ただちょっと他の奴らに見せつけるだけだ。…どうだ?中々悪くない案だと思うが」 店長が喋る度に生暖かい吐息が吹き掛かる程の、至近距離。 その言葉に、ただでさえこんがらがってる思考回路は既に渋滞を起こしてしまってて。 「見せ…つける…?」 「ああ、例えば…そうだな」 顎を撫でていたその指先に、軽く顔を持ち上げられた。 瞬間、唇に柔らかい感触が押し当てられる。 「ん…っ」 目の前、すぐ傍にある店長の長い睫毛に、自分が何をされたかは理解出来た。 全身の血液がどっと熱を帯びたのは恐らく気のせいではなくて。 呆然とする俺に、店長は何事もなかったかのように唇を離す。 「こんな風に恋人らしいことしてれば勝手に騒いでくれるはずだ」 キスというにはあまりにも優しくて、ただ触れられただけにしてはあまりにも刺激が強すぎて。 硬直する俺に、微笑む店長。 肩を掴んでいたその手が、ゆっくりと腰に回される。 その生々しい動きに、ハッとした俺は慌てて店長の胸を押し返した。 「っ、店長……!」 腰を撫でるその手に、こそばゆさと恥ずかしさで力が抜けそうだった。 それでも必死に店長の腕から逃げようとするけど、如何せん、体勢が悪すぎる。 「どうした?そんなにガチガチになってたら不自然だぞ」 壁に押し付けられた体は実質八方塞がりで。 恋人同士はこんな人目につきそうな場所でもこんなことするのか。 恐らく一生俺には理解出来ないであろう世界だ。 「もっと力を抜け」 不意に、耳朶に寄せられた唇に息を吹き掛けられ全身が震える。 あまりのあれで硬直する俺に構わず、這わされる舌に耳朶を舐められぞくりと悪寒にも似たなにかが背筋に走った。 |