元凶その1

「それで、どうした?女に恨まれたのか?」

「ま、まあそんなことです」


まさか自分が妬まれている立場だということだけは知られたくなくて、ちょっぴり意地張ってみる。
すると目を細めた店長は「ほぉー?」と意味深な視線を向けてくるではないか。


「なんですか、その目は…!」

「いやなに、お前にもそういうあれがあるのだなと思ってな」


ちくちくと突き刺さる視線が痛い。
信じてくれたのかどうかはわからないが小馬鹿にされているのには違いないようだ。


「そこまで気が滅入っているのなら未奈人さんに言えばすぐに片付くんじゃないか?」

「じょ、冗談じゃないですよ!兄に泣き寝入りなんてしたらどうなるか…!」

「わ、悪かった。今のは俺が悪かった…。でもまあ、そうだな。そういうことは慢性化する前に面と向かって話付けるなりさっさと片付けた方がいいんじゃないのか」

「そうしたいんですけど…」


相手すらわからない今の状況、犯人を絞ることすら出来なくて。
俯く俺に、店長は不思議そうな顔をした。


「なんだ、なにか問題でもあるのか」


ここまできたらもう素直にぶっちゃけた方がいいのではないのだろうか。
下手に見栄を張ったところで解決策が遠ざかってしまうくらいなら、余計。


「実は…」


というわけで、俺は店長に先程紀平さんから聞いたことを洗いざらい話すことにした。




「…ふむ」


珍しく茶々を入れずに真剣に最後まで聞いてくれた店長に内心戸惑わずにはいられなかったが、誰でもいいから縋り付きたい今はこの目の前の睫毛が頼もしくすら見えてきた。


「どうしたらいいんすかね、俺」

「なるほどな。…答えは簡単ではないか」


そして、一呼吸置いて店長は口元を歪める。


「笹山に近付かなければいい」



mokuji
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