雨の日の忘れ物にご用心

「あーまじ最悪なんだけど、クソッ、なんなんだよこの雨!」

「雨は雨じゃないのか?」

「じゃなくて、天気予報じゃ20%だったろ!なのに土砂降りじゃねーかよ!」


更衣室前。
中から聞こえてくる四川の大きな声にびっくりして扉を開けば、四川と司がいた。


「どうしたんだ?」

「傘を忘れたらしい」

「プッ」

「おいなに笑ってんだよ、てめえ」

「だってそれ、自業自得だろ!日頃の行いのせいだな!ざまーみろ!」


日頃の鬱憤を晴らすため、ここぞとばかりに馬鹿にしてやればぴくりと四川の額に血管が浮く。


「……なんだと?」


あ、やばい。これちょっとまじな方じゃねえの。なんで怒るんだよちょっと馬鹿にしただけじゃんと早速怯み掛ける自分に慌てて喝を入れ、俺は四川の目から逃げるように自分のロッカーの前へ行く。


「ふ、ふん!そんなに睨んでも怖くねーから!だってほら、お前と違って俺はちゃんと折り畳み傘持ってきたし?」


そうだ、兄からのメールで傘を忘れないようにとあったので念のため持ってきたのだ。
今回は俺に責められるところはないはずだ。
と、ロッカーの中を漁る俺だが。


「あ、あれ……?」


そのままぶち込んでいた折り畳み傘がない。
可笑しい。なんでだ。数時間前、確かに入れたはずだよな?
四川の冷ややかな眼差しを受け、全身冷や汗だらだらになっていると、ふと傍までやってきた司の手が俺のロッカーに伸びる。

そして、


「原田さん、ここになにか張り紙が」


ぺりっとロッカーからなにか剥がした司は俺に手渡してきた。
それはメモ用紙のようで。
そこに書かれた文面に俺は目を疑った。


『カナちゃんへ
傘持ってくるの忘れちゃったから借りるね!
翔太』


「あああああの野郎……!!」


いつもタクシーだの専属運転手など無駄に活用しているくせになんで今日に限って徒歩なんだよ!嫌がらせかよ!昨日俺があいつの杏仁豆腐食ったからか!


「ブハッ!てめー偉そうなこと言って傘なしじゃねーかよ!」

「う、うるせえな!ちゃんと持ってきてたんだからお前とはちげーし!」

「どっちも傘ないというのには変わりないけどな」

「……」
「……」


もっともな司の言葉にぐうの音もでなくなる俺たち。
そうなのだ、俺も傘を持ってきてすらいない四川と同類になってしまったのだ。しかもこの雨。笑えない。

何も言えなくなる俺に、四川はまだ腑に落ちないようで司に突っかかる。


「そ、そういうあんたはどうなんだよ」

「俺?車あるし」

「……」
「……」


再び撃沈。全く関係のない俺までダメージ食らいそうになる。
車か、確かに車があればいいが実家に助けを求めたくないし運悪く兄が来てしまったら「あれ程傘を持って行けと言っただろうが!」と延々説教食らうことは間違えない。
やっぱり、早くに雨が止むのを祈るしかないな。

そう、落胆した時。


「なんなら、家まで送ろうか。原田さん」


それは思いもよらない司からの誘いだった。


「えっ、俺?」

「おいナチュラルに人を無視してんじゃねーぞこのムッツリ野郎!俺!俺も傘ねーんだけど?!」

「お前は体丈夫そうだから……大丈夫だろ。雨に打たれてこい」

「ひでー差別!」

「ありがとう、司……」

「遠回しに軟弱扱いされてお前も喜んでんじゃねえ!」



mokuji
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