一時の憩い


「あ、原田さん、おはようございます」


店長に怒られたので自分の持ち場(便所)に戻ろうとしていると、不意に背後から声を掛けられる。
振り返れば、そこには私服の笹山が。
どうやら今来たばかりのようだ。
目があうと、唯一の店の良心もとい俺の癒やしもとい笹山はにこりと笑う。


「あ、はよ。雨大丈夫だったか?」

「ええ、なんとか。ですが、これからまだ激しくなるみたいですからね」

「うえー」

「上がりの時までには止むといいですね」


あーこの感じ、この感じだ。
まさに平和ーって感じの他愛のない会話。
口を開けば説教シモネタ怒声に罵倒、それらに大分心荒みかけていた俺が求めていたのはこういうものだ。
「そうだな」と釣られて笑顔になりながらも頷き返したとき。


「おい、笹山!」


どうやらその平和な時間も終わりのようだ。
他の店員に呼ばれ、「あ、はい!今行きます!」と慌てて返す笹山は申し訳なさそうに俺に頭を下げた。


「それじゃ、また後で」

「あ…ああ」


少し名残惜しいが、またここで話してたら店長が飛んでくるかもしれない。
俺もそろそろ持ち場(便所)へ戻るか。
笹山と別れ、そのまま歩き出そうとしたときだ。


「ん?」


不意に視線を感じ、背後を振り返る。
しかし、そこにはただ商品棚と卑猥なイラストが書かれたパッケージがずらりと並ぶばかりで。


「……気のせいか?」


なんとなく引っ掛かりながらも、俺はそのままその場を後にした。



mokuji
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